第4回・民謡コンクールの旅・7月3日(日)唄三味線・優秀賞


沖縄は夏真っ盛りでした

リハーサルの様子(審査中は撮影も録音も禁止です)

審査委員長講評

合格発表の様子

この2年間で、一番幸せを感じた夜でした

こちらは、帰ってすぐに、聞きました。「全然、唄になってない。」合格したのが不思議なくらいです。文字通り、いちからの出直しです。

スッキリと澄み渡った空。

切り替えて、切り替えて、切り替えたつもりでも、やっぱりあの感覚はよみがえってきます。ひとりでいるのは良くないと思ったので、朝7時起きで、先発隊に合流しました。そして、前日にみんなからもらったものを、少しでも、返したかったのかも知れません。今日の全員の挑戦に立ち会いたいと思ったからです。

この時点では、まだ、前日の新人賞の結果は出ていません。結果をそして先輩たちの挑戦を見に来た仲間も、ゾクゾクと顔を見せはじめます。そして、やっぱり聞かれます。「どうでした?」つらいけど、しょうがないですね。

札幌のコバ先生をはじめ、県外大工ネットの先輩方からも、声を掛けていただきました。みんな、やさしいな〜っ、ちょっと、前日のこと思い出して、また、泣きそうになりました。不思議に、思い出しても、緊張はしませんでした。

先発隊の舞台を応援したりしているうちに、そろそろ、着替える時間になってきました。ふたりとも「ブザー」は鳴らず唄い終えて、まずは安心です。やれやれ、今回のコンクールは、「ブザー」の音に、かなり神経質になりそうです。

コンクールは、10〜15人くらいずつのグループに分かれて受験するため、グループ毎の間には10分程度の休憩時間があります。これは、朝から晩まで審査されている先生方の休憩という意味もあるのですが、受験者に解放されますので、またとないリハーサルの機会ともなるわけです。

僕の受験番号は「32番」、グループの先頭は「31番」なのですが、この方が棄権されたため、グループの先頭で受験することになりました。これで、少なくとも、目前で「ブザー」の音を聞くことだけは、免れたことになりました(ちょっと、いえ、かなり安心)。

ここで、少し嫌なものを見てしまいました。僕たちのグループに与えられた「リハーサル」時間に、「受験番号通りは不公平だ。自分が最初に来たのだから先にやらせて欲しい。」と、後の方の受験番号の人が抗議をしてきたのです。「リハーサル」は、通常、受験番号順なのですが、最後の方の人は、唄えないこともあります。僕も、新人賞の時は、受験番号が最後の最後だったため、唄えませんでした。

十分準備されていたとしても、予定は、遅れることがあります。だから、この「リハーサル」の時間には、それを調整するという意味も含められていて、つまり、あくまでも、「おまけ」の設定だと思うのです。だから、「不公平」なんてことは全然お門違いだと思うのですが・・・。

そしてこの人は、結局「リハーサル」の最初、つまり、僕の前に唄っていかれました。

この顛末を、文字通り目の当たりにして、やりきれない気持ちにはなったのですが、同時に、少なくとも自分は、こんな事はしたくない、しないでおこう、と、気付くことが出来ました。

そして、いよいよ、本番です。

「それでは、審査を再開します。31番、染みなし節。」

えっ、違うやん?「ちょっと、待って。」あわてて進行の先生が、僕を押しとどめます。会場も異変に気がついて、ざわめきが起こります。「大変、失礼致しました。31番の受験者が棄権のため、32番からの審査となります。準備が整うまでしばらくお待ち下さい。」説明のアナウンスも少し早口になってしまっています。どうも、今回のコンクールは、いろんなことを体験することになっていたようです。

進行の先生が、「落ち着くまで、待っていいから、焦らないで。」と、声を掛けて下さいます。緊張していた舞台の袖が、新人賞の時にも、そして、前日にもただよった、あの、あたたかい空気に包まれていきます。

「さぁ、行くよ。」進行の先生の合図です。「落ち着いてね。」

「審査を再開します。32番、安里屋節」

一瞬、この2年間の出来事が、目の前を駆け抜けました。そして、妙に落ち着いた、気持ちになれました。袖で一礼し、舞台の真ん中まで進みもう一度、礼。顔を上げると、目の前の全ての人の顔が見えました。

調弦して深呼吸、「合、四、工」、そして、「工、四、合」今日は大丈夫です。

「安里屋節」の最初の音は「八」、三味線を構えた左手の指が、そのままでは届かない位置を小指で押さえて出す音です。普段からこの最初の音をよく外してしまうので、自分なりに、この音に集中するつもりでした。「この音がうまく出せたら、最後まで何とか演奏できる。」そう念じて指をズラします。

「てぃ〜ん、た〜り、と〜り、てぃん・・・」第一関門突破です。次は、歌い出しの音、「あさとや・・・」を鼻に掛けない、「・・・くや〜まにやぅ・・・」の「に」を遅らせない、「まりばし」の「し」をぶらさげない、「うやき」の「や」の次ぎ下がる前にあげて、「き」をぶらさげない、「ゆばなうれ」の「なうれ」を意識して持ち上げる、最後までイケルかも知らん、「ブザー」だけは、今日は、絶対イヤや。

「てぃ〜ん、た〜り、と〜り、てぃ〜ん」、終わりました、「ブザー」なしで。この時浮かんだ言葉が、何か知らん、「みんな、ありがとう」でした。

一礼し、袖にはけます。もう、クタクタ。皆さん、声を掛けて下さったんですが、申し訳ありません、言葉の中身をあまり覚えていません。ただ、ただ、皆さんの笑顔、笑顔、笑顔、そして、やっと終わったのだと。結果は、もちろんまだわかりませんが、少なくとも、その時点での自分の力を出せたと、この時は納得していました。

日曜日なので、そろそろ帰り支度も始まりました。「また、お会いしましょう。お元気で。」「お先に失礼します。」全国から集まった大工ネットの先輩方も、大阪三線クラブの仲間たちも、少しずつ会場を後にします。

結局、大阪三線クラブからの優秀賞の受験者は、全員最後まで唄い切り、審査発表を待ちます。

優秀賞の審査が終わった後は、最高賞の審査です。新人賞の時には、日曜日の審査を見ることが出来ず、後でかなり後悔したので、今回は、じっくりと見学させていただくつもりでしたが、半分くらいで頭がオーバーヒート、後半は、八重山の受験者の方だけ見せていただきました。審査をされている先生方は、優秀賞から大賞までぶっ通しなのに、何とも情け無い話しです。

全ての審査が終了して、やっと、審査発表です。発表の前に、審査委員長である師匠からの講評がありました。「今回は、受験者のレベルが、そんなに高くなく、これという受験者が少なかった。合格した皆さんも、気持ちをゆるめることなく、しっかりと練習に励み、さらに上を目指して下さい。」

そして、いよいよ発表です。

みんなの番号を探さないといけないのに、最初に探してしまいました、ごめんなさい。

「32番」、あった。

師匠、佐々木さん、大工ネットの先輩方、事務局&裏方お世話になった皆さま、三線クラブの仲間達、本当に、本当に有り難うございました。

振り返って 優秀賞へのチャレンジは、全員合格というわけにはいかず、ほぼ、合格率通りの結果となりました。つまり、2年後の最高賞は、合格率を例年通り10%台と仮定すれば、合格者ゼロということも十分あり得るということになります。師匠の御言葉通り、気持ちを引き締めて行かねばと、改めて思いました。
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