特別指導編(04.05.07〜09)

<お断り>

今回の旅行には、未成年者および、療養者などに対して、不適切な刺激を与えるおそれのある、過度に辛苦な、あるいは甘美な内容が含まれているため、画像の公開は差し控えさせていただきます(^^)。あしからず御了承願います。

また、読了後、いかなる症状が発生した場合にも、その責は負いかねますので、あくまでも自己責任でお楽しみ下さい(^^)。

※この物語はフィクションであり、実在の人物とは一切関係はありません(^^)。

5月7日(金)「ドラマのような再開」

17:30ジャスト、客と社長を振り切り店を飛び出した。ひょっとしたら、後を追いかけてくるかも知れないので、小走りに駅へと急ぐ。営業時間中に職場を放棄するという行為は、非常に心苦しく、かつ「借り」をつくることになるので、できれば避けたかったのだが、今回はいたしかたない。

さかのぼれば、3月21日(日)の「特別講習会」の二次会、後先のことも考えず、酔った勢いで「師匠、特別指導御願いします。」と、口を滑らせたのが原因である。BGMはもちろん「♪ぬみぬならんデンサー♪」

大体、師匠に対して、「酔った勢い」という態度こそもってのほかなのだ。桁外れに寛大な師匠だから大きな問題にならなかったが、通常であれば、「破門」の二文字が目の前を散らつくようなイケナイ行為なのである。従って大いに反省したのは言うまでもないが、自分から言い出した以上、この日程だけは、石にかじりついても確保しなければならない。これを「自業自得」、または「身から出た錆」という。

何とか、追っ手はかわしたものの、今度は携帯電話が追いかけてきた。「いやぁ、それはぁ、あのぅ、帰ってから何とかしますから、いやぁ、すみません。」最後に謝っているところに、こちらの弱みが暴露されている。今はとにかく、「18:00のラピート」に乗らなければならないのだ。

少し真面目な話しをすれば、確かに行き詰まっていたのである。去年の7月に、琉球民謡音楽協会の民謡コンクールで新人賞を受賞してから、練習が緩慢になってしまっている。そうなるとは想像できていたので、「赤馬節」という、難易度の高い曲を練習曲にしたのだが、そろそろ限界に来ている。それが証拠に次の「鶴亀節」がちゃんと身体に入ってこない。ここは、やはり、次の具体的な達成目標が、必要なのだ。

つまり、それは、優秀賞の課題曲を、優秀賞に求められているレベルで、練習するということなのである。となれば、自力で取り組むことは、ほぼ不可能に近い。かといって師匠の出張稽古の際に、十分な稽古をつけてもらえるかどうかは、過去の経験から容易に想像できた。だから、もう、行くしかなかったのである。

関空を19:30に飛び立った便は、21:30過ぎに那覇空港に降り立った。バスは、もう終わってしまっている。去年までなら、もうタクシーしか無かったのだが、ゆいレールが開通してからは、首里までではあるが随分便利になった。県庁前で降りて、国際通りにある新金一旅館まで10分ほど歩く。少し歩くとさすがに汗ばんでくる。モワッとした空気に沖縄を感じる。

この宿泊施設、「旅館」となっているが、そもそもの建物は「マンション」である。それを、台湾系のオーナーが、宿泊施設として提供しているということである。従って、玄関のドアの外は、屋外なので、門限はない。さらに国際通り付近、バス・トイレ付きで、3000円台はかなり安い。

チェックインを時間ギリギリで済ませて、少しホッとして部屋に上がろうとしたら、背後から声を掛けられた。「takarinさん?」意外そうな問いかけに振り向いてみると、えりぃちゃんが食料の袋を持って立っていた。「えりぃちゃんね。どうしたの?」ここらあたりから、BGMは、東京ラヴストーリーに変わる。「♪あの日、あの時、あの場所で、君に会わなかったら♪」

実は、今回、お稽古旅行の全行程の中で唯一、自分の楽しみのために取って置いた時間が、今日のこの時間なのだ。今度那覇に来る時には、国際通り付近で門限を気にしなくていい宿に泊まる時には、ここと決めていた店があった。ところが、逃げるように職場を飛び出してきてしまったため、その店の住所も電話番号も控えることが出来なかったのである。半ばあきらめながら、携帯でインターネット検索をしてみる。どんパチでは無かったが、同じ名前の店が何軒もヒットした。世の中便利になったものである。

結局、わからずじまいで、最後の手段、情報のソースに電話を掛ける。しかし、予想通り留守電の応答だ。彼の電話は通常2時をまわらないと通じない。あきらめかけていた時に、彼から電話がかかってきた。すぐに、店に電話を入れる。「11時までなんですけど。」間に合わへんやん。「どなたかの御紹介ですか。」ひょっとして・・・・。「お待ちしています。」やった。

えりぃちゃんと合うのは、多分、4回目になる。とても、キュートなお嬢さんで、しかも、八重山古典民謡コンクール優秀賞の受賞者、つまり、民謡の先輩である。流派が違うので、微妙に唄い方も違うし、学んでいる環境も異なるので、一緒に唄うと違いがわかって興味深いし、話すと共通の悩みがあったりして、楽しい。初めての店だったので、料理はおまかせで頼んで島を飲む。途中から、店の島ちゃんも加わって、話しはさらに盛り上がった。ここに、もし三味線があったりしたら、きっとかなりの確率で、朝まで飲むことになっていただろう。

そう、御存じの方はニヤリとされただろう「とんとん味」である。だから、料理は文句なしだった。敢えて言えば、「甘くない。」自分的には、甘みを加えずに料理をおいしく仕上げるのは、難しい。逆に、もうひと味という時に、一番簡単なのが、甘みを加えることである。だから甘くなくておいしい料理は、特に記憶に残る。

帰り際に、島ちゃんが顔をくしゃくしゃにしながら言った。「明日、時間があったら、連れて行ってあげたいところがあるから、電話してきなさい。」最高の沖縄式のホスピタリティに、初めてのお稽古旅行という緊張感がゆるんでいくのがわかった、ような気がした。さすがhiroさんイチオシの店である。

5月8日(土)「いよいよ初稽古!」

えりぃちゃんと島ちゃんのおかげで、朝までぐっすりと眠ることが出来た。まぁ、遅くまで飲んだから、という見方も出来るが、今回はテーマとずれるので、掘り下げず先に進もう。新金一旅館の朝食は、こざっぱりしてかなりの好感度である。「今日はゴーヤーの日なのでチャンプルーです。」とスタッフの方も、家族的でいい。

さて「初稽古」である。従って、何をどう準備したらよいかさえ、わかっていない。取り敢えず、「声出し」をしながら考える。沖縄にいるせいか、「声出し」も楽なような気がする。そもそものアイデアとしては「工工四(楽譜)をたくさんコピーしておいて、教わったことを、片っ端から書き込んでいく。」というものであった。この方法なら、帰ってから、録音を聞き直すことなく、問題点を把握できる。その上で、わからなくなったところだけ、音源を聞き直せばよいのだ。

しかし、唄っているうちに、気持ちよくなってきて、時間を忘れてしまい、あわてて出かける支度をする。そのコピーをまだしていないのである。コンビニ、コンビニっと。

教訓その1:コンビニは、あらかじめ目星をつけておくべし。結構、ない。ちなみに、新金一旅館から国際通りに出たところにあった「ローソン」が無くなっていて、焦った。
教訓その2:コピーは、思ったより時間がかかる。時間にゆとりを持つべし。私の場合、出来るだけ拡大しようとしたため、さらに時間がかかってしまった。

コンビニを飛び出して、稽古場までタクシーを飛ばす。約束の時間5分前、「やれやれ、間に合った。」と思ったら、師匠が先に来て、珈琲を飲んでいた。初回から、お待たせしてしまって、すみません。

さっきまでは、リラックスしていたはずだが、師匠を目の前にして話していると、徐々に緊張してくる。師匠は、緊張を和らげようと色々と話してくださるのだが、最初に「安里屋節」を弾いた時には、「手を覚えてないの?」と、言われるほど緊張がピークに達していた。

「どこからいこうかな。」と、具体的な指導が始まる。「三味線の音がよくない。」「リズムがバラバラ。」「声が鼻にかかっている。」といつもの通り進んでいく。それにしても、われながら、進歩がないなぁ。そして、とうとう本題にはいる。「音程が悪い。」「工も四も上も低すぎる。八重山では、そんな音は、使わないよ。もっと高くして。」顔は笑顔で、口調もあくまでも優しく指導してくださるのだが、内容は難しい。

文章で表現するには、かなり無理があるのだが、調弦をCGCで合わせた時の、高い方のCの音を「工」と呼ぶ。この「工」という文字が、工工四(楽譜)に書かれている時、その音は、最低4つある(と私は今思っている、それまでは3つだと思ってました)。調弦の音より低い「(ぶら下がった)工」、調弦通りの「工」、調弦より少し高い「(持ち上げた)工」、さらにそれよりまだ高い「工」の4種類である。この、後ろふたつの「工」の音程がなかなか取れない。特に「一番高い工」はどうしょうもない。(どうしよう。)

「まだ低いよ」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「ちょっとマシになった」
「また元に戻ったね」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「ちょっとマシになった」
「また元に戻ったね」
「まだ低い」

「はい次は四の音」
「まだ低い」
「ちょっとマシになった」
「また元に戻ったね」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
「まだ低い」
  ・
  ・
  ・
  ・
飲み込みの悪い生徒で申し訳ございません。

「君は、人前で唄っているんだから、これくらいは出来てないとダメだよ。」

すみません。明日、頑張ります。

大幅に、時間を延長していただいて、出来ないのがかなり情け無い。しかし、師匠は限りなく優しかった。小浜節の「次第下げ」は何とかクリア。

練習後は、奥様ゆかりのお店に連れて行っていただいた。店内には、師匠のCDが流れている。「ここはね、僕のCDしかかけないんだよ。」と始まって、普段はあまり話されないようなことまで、色々うかがうことができた。苗子さん(奥様)も、色々気にしてくださって、稽古をつけてもらいにきて、しっかりもてなされてしまった。おまけに、立派なぐるくんの唐揚げまで、お土産にいただいた。有り難うございました。←何しに来たんや?

5月9日(日)「補講」

というわけで、本日の朝食は、島ちゃんにもらった特大のお握りとぐるくんの唐揚げである。コンロがなかったので沸騰ポットでお握りを温め、ぐるくんはレモンを絞って冷たいまま。これが案外いけた。もともとキレイに三枚におろしてから、首の皮一枚でつながった状態で唐揚げになっていたので、素手でちぎって食べられた。つまり、箸もなかったのだが。

今日は10時チェックアウトなので、食べながらの音出しである。全ての荷物を持って、外に出ると、さすがに暑い。早速国際通りのCDショップに避難する。

元々、かなりのオキナワンサウンドの、試聴が出来ると期待していたのだが、想像を軽く超えていた。約300枚である。もう、びっくり。時間さえあったら、1日中ここにいても、退屈しないであろう。私の聴いた中では、「東京エスムジカ」というのが、なかなか驚かせてくれた。若い人向けには「やなわらばー」「orenge range」「モンパチ」やら(←中身がわかってない)、最近話題の「下地勇」の新アルバムと充実。もちろん、師匠のCDもかなり揃っている。

隣には、楽器部もあって、こちらも、理由有り品、特価品、限定品など楽しませてくれる。特価のボンゴがかなりいい音してたので、もうちょっとで衝動買いしてしまうところであった。(←どうやって持って帰るねんと、すんでのところで思いとどまった。)この時の自分に大きな声で言いたい。「お前は、買い物に来たのか?」

こんなことでは、昨日の宿題をこなせるはずもない。今日は早めに稽古場に行くことにしよう。稽古場は首里の高台にそびえるアルテ崎山という建物の中にあるのだが、1階がギャラリー&喫茶のとても気持ちの良いスペースになっていて、ここがまた、居心地がいい。珈琲とサンドイッチ(←注文してから手作りのため時間はかかるがメチャおいしい)で昼食を済ませ、気持ちを稽古に集中させていく。

結局、今回の私のテーマは、音程にあるので、演目を選ばない。それではということで、普段、八重山組で練習している曲のうち、お稽古用の音源がない曲を、見ていただくことになった。

「赤馬節、御願いします。」
「よく練習してるね。特に、間違っているところはないですが、『さ〜あ〜に〜しゃ』の息継ぎと『よ〜お〜お〜お』の発声に気をつけて。」

「鶴亀節、御願いします。」
「これもよく練習してるね。でも、何で、『む〜う〜ら』ができて、『み〜る〜く』ができないの?、同じでしょう。」

※ここで、【重大な発見!】私は、今回「八重山古典民謡保存会」の工工四と、検証のため「安室流保存会」の工工四を持参したのだが、師匠の「八重山古典民謡保存会」の工工四と私のものとでは、内容が違っていた。『み〜る〜く』の「四」が、入っていましたよ、べっちーさん。他の曲についても、同様のことがあった。ちなみに『み〜る〜く』の「四」はかなり下にズレている。(わからない人すみません。)

で、師匠の工工四を見ながら、演奏したらクリアできた。

「あがろうざ、御願いします。」
「これもよく練習してるね。でも、子守歌だから、歌い出しはやさしく入ってください。」

「弥勒〜やらよう節、御願いします。」
「それで、いいでしょう。頑張ってください。それにしても、弥勒〜やらようで締めくくるとは、良くできてるね。」

師匠、何から何まで、有り難うございました。今回も、旅の出来事を振り返ってみて、技術やワザを学んだのではなく、心を学んだのだということが、つくづつ、身に滲みた。

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