第二章・「民謡コンクール・新人賞編」03.07.05.


大阪からは10名が受験した

155番目の受験票

受験直後、外はもう真っ暗

「島唄」にて打ち上げ

翌日の合格発表、右の数字は合格率

※和気あいあいとしていても、試験は試験、会場内の撮影や録音は禁止。様々なドラマがありましたが、それはそっと胸の中に納めておくことにしておきましょう。


たとえ目的ではなくても、賞状やメダルをいただくのは、悪い気分ではない。賞状だって十年以上ぶり、メダルなんてひょっとしたら、生まれてはじめてじゃぁない?

過去の旅日記を読まれた方なら、大体おわかりいただけるかと思うのだが、タイトルの「民謡」とは「沖縄の民謡」のことである。そして自分的にさらに突っ込むと「1700年代に作られた沖縄の八重山地方の民謡」ということになるのだが、その話は別の機会に譲るとして、「コンクール」である。沖縄にはいくつかの「民謡」の団体があって、私が多少知っている八重山民謡のものだけでも「八重山古典民謡保存会」「安室流保存会」「安室流協和会」「安室流室山会」、多分まだまだあると思っているのだが、そのそれぞれが大体年に1回、この「コンクール」を行っている。民謡を正式に学ぼうとするものは、まず、この「コンクール」を受験するのである。難易度は、4段階位あって、下から順番に受験していく。まずは「新人賞」、続いて「優秀賞」、そして「最高賞」、最後は「民謡名人」あるいは「民謡大賞」呼び名は各団体で多少違う場合もあるのだが、合格した翌年は受験できないといった規則は大体共通していて、「新人賞」を受けた団体と違う団体で「優秀賞」を受験するといったことも可能であるらしい。

今回が初めてのコンクーとなるため、私を含めた大阪三線クラブの10名は、従って全員新人賞の受験である。沖縄の「民謡コンクール」なので、他の団体だと受験者はたいがい地元の人なのだが、私達の師匠である大工哲弘先生の門下生は全国にいるので、今回も新人賞155名のうち、28名が県外からの受験者である。今年は、ANAのバーゲンチケットの日程が考慮されたため、フライトは往復2万円、宿泊は福利厚生関連で2泊5000円と格安旅行並みに抑えることが出来た。とは言っても、やはり「お受験」、お茶やお花ほどではないにしろ、結構物入りではある。受験するためには、いずれかの民謡研究所に所属していないといけない(師匠がいなければならない)のでその費用(団体の会費など)、受験費用、受験のために師匠にみていただく指導料(どこまで明らかにしていいのかわからないのだがここまででざっと2万円)、唄にふさわしい服装の費用(八重山民謡の場合、単衣に裸足なので安い、1万円以下)、三味線は持っているとして、食費などを除けば、しめて5万円強で受験できる。さらに、合格すればお披露目があるので1万5千円ほど余分にかかる。それでもお稽古事として考えればそんなに高くはない。

6月14日、受験番号の抽選会が行われた。本来なら出向いて、クジを引かなければならないところなのだろうが、在沖の門下生の方が県外者分を代行してくださったとのこと。こういう、細かな部分の配慮がとてもうれしくかつ有り難い。しかし、喜んでもいられない。私に割り当てられた順番は155番、大トリである。「陰謀だ〜っ。」と、思わず叫んでしまった。歌い終わって着替えも済ませた9人のすがすがしい顔に見つめられて唄うなんぞ、考えただけでも頭が痛い。が、まあ、自分でなければ、誰か別の人が最後になるんだし、まあいいか、と柄にもなく殊勝になり、覚悟を決めることにした。そうなれば、練習あるのみである。

新人賞の場合は3曲の課題曲から受験生が唄う曲を選択できる。私達の場合8名が「つぃんだら節」、2名が「でんさー節」を選んだ。民謡を学ぶようになってみてわかったことなのだが、民謡は奥が深い。私が選んだ「つぃんだら節」を例にあげても、繰り返し唄えば唄うほど「?」が増えていくのである。いちおう「工工四(クンクンシーと読む)」という楽譜があるのだが、その通り唄ったらいいというものでもないのだ。しかし、師匠は沖縄にいらっしゃるので気軽に質問するわけにもいかない。これが県外者の第1の壁である。さらに、歌詞が昔の方言なのでそのままではさっぱり意味がわからないし、発音も難しい。これが、第2の壁と言えるだろう。まずは、歌詞とメロディーを丸暗記して、それから手(三味線)を付ける。八重山民謡の場合メロディーラインと手で異なった音を使うので、メロディーをキチンと覚えていないと、手につられて正確に唄うことが出来ないのである。これが、沖縄の人をして「八重山の唄は難しいさ〜っ。」と言わせる理由のひとつである(もうひとつの理由は、八重山方言が難しくて難儀〜っということらしい)。第1、第2の壁を乗り越え、さらに丸暗記して、手が付いてやっと、師匠に聴いてもらうことが出来る事になるのだが、間違いを指摘されてすぐに直すことが出来なければ、次に聴いてもらえるのは数ヶ月先である。初めての受験と言うこともあって、師匠が来阪される特別講習会では、全員カチンコチンと音がしそうな程緊張していた。

それぞれに仕事の都合があるので、渡沖もコンクールの会場入りもバラバラである。まとまりがないように見えても、一緒に壁を乗り越えてきた仲間である、顔を合わせると緊張感も薄れていく。さらに、同じ師匠を持つ県外受験者もいる。在沖事務局のHさん、北海道のKさん、群馬県のKさん、といった先輩方も、お目にかかるのは初めてなのだが、普段いろいろお世話になっているので初めてお会いする気がしない。ある種の懐かしさのような不思議な感覚につつまれる。

何やかんやのうちに、女性陣が襦袢を付け始める。同じ単衣でも男とは中に着るものが違うのである。さらに、髪を結う場合も沖縄風というか、八重山風に結う、これも女性だけ。髪を上げ、着付けを済ませると、何となく上手そうに見えてくる。着物に慣れるため、立って練習を始める者もいる。私はまだまだTシャツのままである(何せ最後やし)。そうしているうちに、大阪組の順番が近づいてくる。「チンダミ(調弦)合ってる?」(大丈夫だってば)「前から棹がグラグラするねん」(今頃言うなって)。そして、そっと背中を押してやる。あとは、今日まで頑張ってきた自分を出せばいい。僕たちがここで見て応援しているから。ひとりひとり出ていっては帰ってくる。あらま〜っ、ちゃんと唄いきったのに、緊張が解けて泣いちゃった娘もいるじゃない。でも、みんなみんな、よく頑張ったね。私より、人生における先輩も3名、こちらは、平常心で立派に唄い終えた。さすが先輩。

時折、静寂な舞台に無情なブザーの音が響く。途中で失格を宣告されたのだ。ここまで、きっと、一生懸命練習してきたのに、歌詞や手をド忘れしてしまったのだろう。無念の表情をかみ殺し、伏し目がちに退場していく。ここで、師匠の言葉を思い返す。「コンクールは目的ではない。その過程が大切なのだから、合格、失格を気にするのではなく、しっかりと努めて下さい。」つい、失敗を恐れてしまう自分の弱さが露呈してしまい、苦笑いである。

そして、最後の最後がやって来た。舞台の袖で朝からずっと受験者を送り出してきたスタッフ(理事の先生)の方が、声をかけてくださる。「最後だから、ゆっくりと歩いていって、堂々と唄っていらっしゃい。」大阪の仲間も、口々に送り出してくれる。身体の中に温かいものが流れているような気がして、全然緊張しない。ゆっくりと、唄い始める。なんか、とぅばらーま大会予選会の時と似ているな〜。と、余計な考えが浮かんできて、危うく歌詞を間違えそうであった。歌詞を間違えたら、確実に失格である。ちなみに、バチ(爪)を落としても、弦が切れても失格になる。最後の一節を唄い切り、ゆっくりと終えることが出来た。やれやれ。控え室に戻ると、大阪の仲間が声をかけてくれた。「最後に唄わないといけないのに、みんなの世話をしてくれて有り難う。」私は、無言でうなずきながら、同じ事を、先輩方に、伝えたいと思っていた。コンクールの受験を通して、人の道を学びに行ったようなものである。

結果は、10名全員合格!!というすばらしいものとなった。私は先に沖縄を離れたのだが、翌日の夕刻、残ったメンバーが、結果発表の直後に、わざわざ携帯を鳴らしてくれた。感謝、感謝である。民謡を学ぶ環境に身を置くうちに、どんどんと、気持ちが澄んでいくような気がしている。他人の心遣いに感謝し、また他人を思いやる心を養う。民謡をともに学ぶ者どうしの間ではそれが、普通に通用するのだ。私をこの道に導いてくださった先輩や先生方に感謝するのみである。


申込書は空港でもらえる

おまけの話し

今、全日空に乗ると、商品券やデジタルカメラが当たったり、もれなくスタバで珈琲がもらえたりするらしい。

最初の方(上の画像左)は、関西限定キャンペーンで「阪神タイガース」「近鉄バッファローズ」「ガンバ大阪」が勝った数だけ当選者が増えるんだそうで、もちろんおすすめは「阪神タイガース」、今年はどういう訳か負ける方がめずらしい。

後の方(上の画像右)は、全国キャンペーンだそうで、どこでも使えるのだが、どちらのキャンペーンでも、「本人名義」の、「キャンペーン対象チケット(下の画像)」が「往復」で必要となるので御注意を。

おまけの話しその2

バーゲンチケットのリスクについて少し。今回私は7月4日の最終フライトで関空を発った。しかし、その前日に「関空橋(正式には何ていうんだろう)」が通行止めとなったのである。チケットは「超割」、片道1万円なのだが、2ヶ月前に前払いで購入し、「フライトの変更不可」「解約は50%負担」というリスクがある。今回の場合7月5日には、絶対に沖縄にいなければならないのである。橋が止まっても、飛行機には乗らなければならない。

そんなことは不可能なので、全日空に電話してみた。そうしたら、「御客様都合でキャンセル」されたので無い限り「一番適当かつ妥当と思われる方法」で、「最善の措置を講じます」から、どのような場合でも、交通機関の「延着証明書」を発行してもらって、「速やかに全日空まで」御連絡下さい、とのことだった。超割チケットでもなかなかやるもんだ。

おまけの話しその3

帰りに空港まで乗ったタクシーでこんなチケット(左下の写真)をもらった。領収証の類ではなく、マイレージチケットだ。JALかJASのマイレージカードを持っていれば、誰でも発行してもらえるそうだ。支払い金額×何パーセントかのマイレージが加算されるらしい。最後に乗ったタクシーだけ車内に表示があったので、どのタクシー会社が発行しているのかは、よくわからないのだが、運良く乗り合わせたらラッキーと言うことで、「タクシーに乗るときは、JALカードもお忘れなく。」。

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