沖縄から帰ったばかりだというのに、またすぐに沖縄へ行きたくなった。こんな経験は今まであまりなかった。無性に沖縄という場所に自分を置いていたい。
全ての予定をこの旅にあわせてアレンジし直した。通常のGWならたまった仕事を愚痴をこぼしこぼし片づけている。1日かせいぜい2日の休みが取れれば良い方だった。自分自身の中で「何故か?」の答えがまだでていない。
5月4日の朝、前日までのオーバーワークで疲れた目をこすりながら空港へ向かう。朝食を適当に済ませたので、待ち時間に食べるものを探す。職業柄すぐに商品の裏を見てしまう。あまり期待していなかったが無添加のおにぎりを見つけた。こんなことが少しうれしい気持ちにさせてくれる。
今回の搭乗機はJASだ。GWも2日目のせいか機内に空席が目立つ。あるいは6日が登校日だから子供連れが少ないのかも知れない。どちらにせよ満席のエコノミー席は息苦しいので助かった。
JAS機には滑走路を写すサービスはなかった(旅日記那波編を参照)。写っていなくても離着陸の瞬間は気持ちが悪くなる。子供の頃から鉄の塊が空を飛ぶなんておかしいと考えていた。天候が良いのが唯一の救いだ。
那覇空港が近づいてくると高度が下がり出す。段々と人の営みが見えてくる。最初に確認できるのは巨大な米軍キャンプだ。さらに高度が下がって入り江の埋め立て地を走るトラックが見える。どこに行っても土建立国の方程式に違いはないようだ。今年はサミットがあるからなおさらだろう。
「沖縄に基地を押しつけている私」「沖縄の自然を食いつぶしている私」が見える。少し憂鬱な気分になった。この現実は忘れてはならない。
空港からJASのバスでホテルへ向かう。国道沿いにいろいろなものを見ることが出来る。沖縄の自動車のナンバープレートには見慣れないものが2種類あるようだ。沖縄78とか書かれている下の左端にアルファベットが書かれているものと、OV 999 のようにアルファベットと数字だけ書かれているものだ。
前者は外国人が制服で、あるいは家族連れで乗っている場合が多いようだ。在日米軍人のプライベート車なのだろう。後者は貨物車が多いので軍の公用車ではないだろうか。その見慣れないナンバープレートも北部に行けば殆ど見ることはない。時々USドルで価格表示をした中古車屋がある。そうだ、ここは沖縄だ。
北谷を抜け読谷から恩納村にはいると徐々に風景がかわる。街から村へ、サトウキビ畑が所々に見える。その間に電球を吊り下げてある畑がいくつもある。地元の人に聞きそびれたのだが多分花を栽培しているのだと思う。夜間に照射して成長を促進しているのではないだろうか。
恩納村の海岸沿いは万座ビーチやムーンビーチ、みゆきビーチなど多くの美しい砂浜を持つリゾート地だ。しかし今は潮の干満差がもっとも激しい時期らしい。午後になると潮が遠くまで引き潮干狩りの家族連れがそこここに見える。この分では海には入れない。
今回の宿泊は自炊式のコンドミニアム。15階建ての低層部が分譲で高層部がレンタルになっているようだ。部屋は広く真ん中に4.5畳の畳スペースがある。トイレ&バスはユニットだが2階にサウナ付きの大浴場があり、宿泊者は無料で利用できる。
3階には自動販売機があり、オリオンビールが200円で買える。街で買えば220円〜230円はする。街より安いとはかわったホテルである。部屋に冷蔵庫がついているので取り敢えず5本ほど買っておいた。
着いたのは2時、この時間では食事をとれる店が少ない。海にも入れないので出かけることにした。食事が出来そうな近場の施設を探す。最初から行き当たりばったりだ。古い民家が移築されているというのに惹かれて「琉球村」へ出かけることにした。那覇から名護までは10分おきぐらいにバスがある。夜も9時頃までなら大丈夫だ。沖縄のバスは不便だと思っていたので少し驚いた。10分ほどバスに揺られて「琉球村」へ。
食事が出来るという選択は間違ってはいなかった。が、GWだというのを忘れていた。入り口前の広場は親子連れ向けのイベントや屋台で「琉球村」はイベント会場化していた。おまけにレストランはGWメニューだった。
しかし、一旦中に入ってしまうとあちこちにある古い民家で、クバ笠や花織(はなうぃ)、焼物(やちむん)などの工程を実演していてなかなか楽しい。三線と太鼓に合わせて踊る琉球舞踊のライブも見ることが出来た。普通は1周のところをついつい2周してしまい結構な時間になってしまった。
琉球村のソーキそばの量がとてつもなく多かったのであまり空腹を感じなかったのだが散歩がてら夕食に出かけることにした。しかし、「久米島の久米仙」の暖簾に惹かれて入った店は1時間待ち、地魚の刺身に惹かれて入った店も満席、この地もGWだった。
最後に入ったのは昼間に見つけておいた沖縄家庭料理の店、何故か「ヤマト食堂」という。この店は明日の昼に来ようと思っていたのだが、まあいいか。メニューは定食のみ。ゴーヤ、ナーベラー、ソーミン、フーなどのチャンプルーが各600円〜650円煮物(テビチ)が750円という価格。しかも私にはやや濃いめの味付けだがおいしい。そんなに空腹でなかったにもかかわらず煮物とフーチャンプルーをいってしまった。泡盛を2杯飲んで2000円足らずはおすすめ。普通の人ならまず1000円で済む。
おかげで何となく気分良く出かけることが出来た。目指すのは山原(やんばる)だ。この度で是非訪れてみたかった場所だ。恩納村から北へ、山原へと向かう国道58号は左側に延々と続く海・海・海・・・全開にした窓から吹き込んでくる風は少し湿っぽいけど暖かく潮の香りがする。
1時間30分ほどで名護に入りR449へ寄り道をする。本部半島海岸沿いに西へ向かう。本部の十字路から少し奥まったところに「岸本食堂」がある。少し分かりにくいので地元の人にたずねるのが速い。
この店にはメニューが2つしかない。650円の「大」と450円の「小」(消費税込)。時間をかけて薪で炊いたスープと、その薪の灰を練り込んだ手打ちの麺でつくる「沖縄そば」は、地元はおろか全国各地からの客が絶えない。12時少し前だというのにこの行列(写真)、普段は行列には並ばないのだが今日は特別。30分待って出てきたそばの味は今まで食べた「沖縄そば」とは全くの別物だった。出汁のコク、麺のコシ全て違う。
岸本食堂
本部町渡久地5
0980-47-2887
11:30〜売り切れまで
水曜定休
時間が早かったためか、向かいの「新垣ぜんざい」は休みだった。
遅めの腹ごしらえを済ませまた北を目指す。本部半島のつけねあたりにある羽地川にさしかかったときに思わず車を止めた。大量の鯉のぼりが気持ちよさそうに空を舞っていたのだ。大阪へ帰った後興奮してその話をしたら友人に「そんなん全国あちこちにあるやん」と冷たく返されてしまった。言い返せなかったが心の中で「いや空の色が違うんや、あんたにはわからんやろけどな」とつぶやいた。
名護から大宜味村に入り喜如嘉のあたりまで来るとところどころで芭蕉を栽培している。喜如嘉は芭蕉布の産地である。もう十何年も前に初めて目にしてからその色と織りに惹かれていた。
作業の工程を見学できる芭蕉布会館を訪ねた。戦前までは沖縄衣料の中心だった芭蕉布を復興させた平良敏子さんが後進を育てている。芭蕉布は全て手作りだ。2年ものの芭蕉から繊維を取り着物になるまでまた2年、合計4年を費やしてやっと仕上がる。村の婦人たちが延々と続くだろう作業を黙々とこなしていた。
芭蕉布会館 大宜味村喜如嘉 0980-44-3033 10:00〜17:30 2・4土曜・日曜休
旅をしていると寄り道が増えすぎて時に困る。だが、本来の目的地が思い描いていた姿を見せてくれるとは限らない。やっとたどり着いた最北端の地辺戸岬は、完全に観光地化されていた。早々に切り上げたのだが、寄り道で充分心が満たされていた私の身体は帰路の長い時間をつらいと感じることはなかった。
車から解放されて夕食である。今日は「久米島の久米仙」だ。GWのピークを越えたようですぐに座ることが出来た。久米仙には「那覇の久米仙」と「久米島の久米仙」がある。兄弟の経営らしいが「久米島の久米仙」の方が通好みということで、わざわざ売りにしている店が増えてきているようだ。味はまろやかで飲みやすい。
しかし食欲がないにもかかわらず「恩納そば」に入ってしまった。ここのそばは「木灰仕込みの手打ち麺」が選べる。食券を買って店の人に渡すときにそう告げる。メニューは色々あるが「恩納そば」550円を食べてみた。「岸本食堂」よりやや濃厚で甘めのスープに独特のコシのある麺は食感がよい。肉はよく見ると3種類入っている。焼き豚とソーキとポークだ。朝から少しきついが不思議に胃に来ない。
恩納そば
恩納村冨着1469-1
098-965-4840
11:00〜21:00頃
不定休
今日の目的地は読谷村だ。前回も訪ねたのだが金城次郎一門の工房兼販売所へ向かう。目的は抱瓶(だちびん)だ。元々は泡盛を入れる携帯容器で、出産祝いに泡盛を入れて贈る習慣があったということだが、その独特の形状と絵付けが花器にぴったりなのだ。
金城窯は登り窯なので同じものは2度と出来ない。絵付けも手作業なのでよく似ていてもどこか違っているのだ。今回のものは前回のものと較べてやや黄みがかっていた。GWだから休みかなと心配していたのだが「休みは窯に火が入っている間だけ」とのこと。ただし敏昭さんの販売所は売り切れで商品がなかった。
ここまで来たので、読谷村立歴史民俗資料館をのぞいてみる。石積みのアーチ型の門で有名な座喜味城跡のすぐ下にある。代表的な5種類の三線や沖縄の家の構造模型、織物とその道具などいろいろ楽しめる。入り口の脇には牛を使って砂糖を絞る機械が配置してあった。
読谷村立歴史民俗資料館 098-958-3141 9:00〜17:00 月・祝日休
玄関の横には首里城の形をした焼き物がたくさん置かれていた。これは遺体を納めるためのもので生まれ変わって幸せになれるように首里城の形をしているのだそうだ。改築するホテルから出たそうで、火葬が原則となった現代ではあまり使われていないそうだ。しかし数が多いと昼間でも首の後ろが涼しい。
読谷で昼食をとるなら「海産物レストラン」へ行ってみよう。名物は「シロイカのスミ汁」だ。私は煮たイカが苦手なので「シャコ貝の刺身」を頼んだ。どちらも定食で1500円でこれまたものすごい量だ。軽く2人前はある。漁港ならではの大胆さだ。
海産物レストラン
読谷村都屋451
098-956-6278
11:00〜21:00
満腹の腹を抱え、取り敢えず国道58号を目指していたその時、目の前をよぎった「国産小麦&天然酵母」の文字。半ば職業病とも言うべき速さで車をUターンさせ看板の店まで引き返した。
店の名は「ベーカリー・ノア」、突然お訪ねしたのにもかかわらずオーナーの銘苅哲男さんがていねいに、そして熱く思いを語ってくれた。
パン屋とホテルのレストランで20年修行したこと、パンからお菓子を経てまたパンに戻ってきたこと、その理由は「シンプルなパンが一番難しいから」という極めて職人的なものによること、外麦を使うと酵母が死んでしまうのを見て国産小麦にこだわろうと思ったこと、難しい酵母のコントロールをものにして天然酵母パンのチェーン展開を目指していることなど短い時間でしたがとても良いお話を聞くことが出来た。
味の方はクセが無く、きめの細かい仕上がりで口当たりもソフト、元々パン職人であることを感じさせるバランスの良いていねいな作りのパン。菓子パンや惣菜パンの中身も全部手作りでもちろん無添加。さらに塩は沖縄特産粟国島の海水塩「粟国の塩」を使用する徹底ぶり。
あの羽賀健二さんの店に卸しているほか、那覇や糸満からわざわざ買いに来る人も多いとか。沖縄の方はもちろん他地域の方も沖縄旅行の際にはぜひ一度訪ねてみて欲しい。
菓子パン&惣菜パン 100円位から
フランスパン 260円
小麦と塩と酵母だけの食パンも自慢の一品です。
ベーカリー・ノア 読谷村字楚辺2057-1 098-957-1300 11:00〜20:00(日・祝日は19:00まで)第2日曜日休
中途半端な時間になったので地図を広げてみる。今回は那覇に泊まらないのでリストから外していた浦添市美術館を目指すことにする。浦添は那覇のすぐ北、読谷からだと2時間はかからないだろう。見覚えのある道を南へと進む。
あと5分ほどで着くはずがなかなか見つからない。4時30分が近ずいてくる。ここまで来て間に合わないのはしゃくだ。しかし公共の建物の割に案内板がない。ようやくたどり着いたのは4時35分、5分の差で間に合わなかった。しかし受付の人は笑って中に入れてくれた。ここは沖縄だ(涙)。
浦添市美術館には漆がどっさりとある。中国のもの、日本のもの、沖縄独特のもの、感心したのが手で触れる見本だ。技法の違いがさわって確かめられる。他の美術館では見たことがない。閉館が5時だったのでバタバタと見ることになったが良い美術館だった。また機会があれば来てみたい。
浦添市美術館 浦添市仲間1-9-2 098-879-3219 9:30〜17:00 月休
書いたものを読み返してみると食べてるばっかりじゃないかと、我ながらあきれてしまった。体重の方は1週間かけてようやく元に戻ったが、身体が元に戻らない。仕事嫌いに一層の拍車がかかったままだ。このまま元に戻らなかったらどうしよう。