旅日記・沖縄(那覇編)00.02.11〜02.13

はじめて大阪モノレールで伊丹空港まで行った。今までタクシー以外の選択肢が事実上無かったので「速く・安く・時間通りに」空港までアクセスできるようになったことは喜ばしい。普段行政の悪口ばかり言っているが、たまには誉めてやろう。飛行機に乗るのは多分8年ぶりだが、まず驚いたのは離陸時に滑走路がテレビ画面に映し出されたことだ。それも、静止画ではなくリアルタイムで中継している。下手なジェットコースターより緊張する。飛行機がふわっと地面から離れる瞬間の映像は今も記憶に残っている。

那覇はあいにくの雨、とは言っても南国の雨は身体に暖かい。2月というのが嘘のようだ。雨の中をバスで那覇バスターミナルへ移動、そこから乗り換えて首里城へ向かう。沖縄のバスは市内便と郊外便に分かれていて、郊外まで出るバスは便数も少ない。バス会社も複数あるので注意が必要だ。

沖縄県民の努力で再現された首里城には様々な技術を駆使して製作された龍が全部で33あって城の主を守ってきた。首里城の龍は足の指が4本(中国の龍は5本)で、1体を除く全てが左右対称に配置されている。

正門を入って正面手前に沖縄時特の「龍柱」が対になって建てられているが、この龍柱は薩摩藩が琉球を侵略したときに3.6mあったものを1.8mに切り落とさせた。私には龍柱がこの国の侵略の歴史をそのまま訴えているような悲しげな目をしているように見えた。


首里城から金城町の石畳道を通って那覇の市内まで歩いてみた。この道沿いは良く整備されていて赤瓦の屋根の家も多い。最近、伝統的な赤瓦で屋根を葺く人が少しずつ増えてきているそうだ。玄関には、様々な形をした「あ」と「うん」のシーサーが対で玄関を守っている。ダイエー系のスーパーの屋根にもシーサーがいたのにはさすがに驚いた。

歩いていると色々なことに出くわすのでおもしろい。泡盛館という泡盛専門の店があり色々な泡盛を試飲できる。色々飲んでみて89年ものの古酒「泡盛館」(720ml・3500円)を選んだ。この味はこの年に仕込んだものだけなのだそうだ。別の年のものは私には個性が強すぎた。泡盛と豆腐ようを送ってもらったのだが、大阪まで1250円の料金で家に帰ったらもう荷物が着いていた。最近の郵便小包は速い。

(株)泡盛館 沖縄県那覇市首里寒川町1-81 TEL 098-885-5681

小さな食料品店などに寄り道をしながらホテルまで歩いた。ホテルに着いてみたら部屋がなかった。旅はトラブルが多いほど後になって良く覚えているものだ。受付で説明を聞いていると、どうも予約した部屋は無いのだが別の部屋ならあると言うことらしい。取り敢えず我慢するか〜と思いかけたところでおまけが付いた。当日のディナー券が付いてきたのである。実は夕食は久茂地の「なかむら屋」へ行こうと思っていたのだがここはすぐに予定変更。さらに翌日にデラックスルームを用意するとのこと。苦虫をかみつぶす風を装っていた口元がゆるむのがわかった。彼は最後にこうささやいた「部屋のドリンクは自由にお楽しみ下さい。」このホテルの名を「かりゆしアーバンリゾート那覇」という。

かりゆしアーバンリゾート那覇 那覇市前島3-25 TEL 098-860-2111

しかし部屋はやはり最後の一部屋という感じであった。真ん中に吹き抜けを持つ細長い「口の字」型の建物の内側に向かって窓が一つ。とてもくつろぐという気分になれなかったので食事に出ることにした。出ると言ってもディナー券はホテルの中でしか使えない。沖縄料理店は無いし、昼に「そーきそば」を食べた(手打ちで有名な首里そばには行けなかった)ので夜はあっさり目でと和食レストランに行ってみると待ち時間1時間。後は中華か洋食のバイキング、座って食べたかったので中華レストランへ。

待ち時間10分ということだったので、待合いのソファーに腰を下ろした。しかし15分経っても20分経っても呼びに来ない。ふと視線を移すとウエィティングバーがあった。じっと待っていると胃に悪そうだったのでドライ・マティーニをおごることにした。しかしこれがまたすぐに来ない。見ていると、中華レストラン内の全てのドリンクオーダーを一人のバーテンがこなしている、いやこなしていなかったのだが。

ようやく出てきた酒を楽しみながらバーテンにいろいろ聞いてみた。このレストランでは紹興酒をぬる燗で出すらしい。酒と会話で少しリラックス出来たかなと思ったところでようやくボーイが呼びに来た。
彼曰く、「どうせお待たせするのなら海が見える席をと思いまして、今御用意していますので後5分ほどお待ち下さい。とのこと。こちらはもうあきらめ半分で「よきにはからえ」って感じ。

トータル40分ほど待たされてぬる燗の紹興酒(720ml・2500円)付きのディナーがようやく始まった。コースは5皿にフカヒレスープとチャーハン、デザートにお菓子が付いてきた。味は良くまとまっていたし量も十分すぎた。帰ろうと思ってレジに行くと紹興酒を含めた飲み物代が10%引きになっていた。「お待たせして申し訳ありませんでした」と先ほどのボーイが一礼した。


ぐっすりと眠った翌朝の朝食バイキングはひどかった。早々に切り上げ街へ出ることにした。国際通りから市場を歩くつもりだったのでホテル前からタクシーに乗った。沖縄のタクシーは安い。初乗り450円だった。安いと思っていたら翌日乗ったタクシーは初乗り440円だったので2度びっくり。

国際通りをぶらぶらしていると「オーガニック弁当」の看板が目に入った。店の前にタンカンや島人参(黄色い)、青菜や根菜をてんこもりにしてあるので八百屋だと思ったのだが、中央のショーケースの中にお弁当があった。食事を済ませていたので買わなかったのだが、ちゃんぷるーの他に3種類ぐらいあって1ヶ350円という価格にまたびっくり。うちの650円のお弁当と同じかそれ以上のボリュームがあった(御飯は白米)。

店内にはカウンター席があってそこでも食べられるそうだ。旅の途中で無農薬・無添加の食事をしかも繁華街の中にリーズナブルな価格で見つけるのは日本ではとても難しい。国際通りや公設市場で買い物した後にちょっと寄ってみてはいかがだろう。

オーガニック弁当(これが店名?)
沖縄県那覇市安里2-3-4 TEL 098-863-7389
代表者:安谷屋美智子

国際通りから牧志の公設市場までぶらぶらと歩いた。この市場は買った魚介類を2階で料理してくれることで有名だ。40cmぐらいある伊勢エビ(のような海老)が元気にはさみを振り下ろしていた。いちばのあちこちでおばあさんが小さい荷車の上に島人参などを並べて売っていた。

市場を抜けると壺屋に出た。壺屋は古くからの琉球焼き物の産地だ。歩いて足が疲れてきたので、那覇市立壺屋焼物博物館にはいることにした。ここなら椅子があるだろう。椅子があったのはビデオルームだった。そこで金城敏昭さんのビデオを上映していた。人間国宝金城次郎さんの御子息だ。見ているうちに無性に彼の焼き物が見たくなった。しかし壺屋に彼の窯はない。人口の増加に伴い壺屋にあった登り窯は何年も前に読谷村に移転していた。

那覇から読谷村までは車で2時間強、現在時刻は2時半だ。レンタカー屋に電話をしたら夜8時までなら貸してもらえるとのこと。往復してもぎりぎり、悪名高い那覇の渋滞につかまってしまえば間に合わない。しかしどうしても金城敏昭さんの窯へ行きたい。ビデオで聞いた彼の言葉が頭から離れない。「新しいデザインを考えたいとは思いません。どんなに考えたとしても、作ってみたら必ず誰かがすでに作っているものです。それに、自分がやっていることが好きなんです」と。

結局借りた車を飛ばして読谷に向かった。途中から小雨が降り出す中、国道58号線を北へ向かう。沖縄は左側通行だが、片側2車線の内右側の車線を遅い車が走っている。これはアメリカと同じである。アメリカは右側通行だがやはり内側車線を遅い車が走る。違うのは、沖縄ではたびたび外側の車線にも遅い車が走っている。それが重なるとしばらくの間は追い越せない。追い越せないとよけいに焦る。焦ったついでに読谷村にある「やちむんの里」を通り越してしまった。

やちむんとは焼き物という意味である。金城さんの窯はここにある。直接窯を見ることは出来なかったが、金城敏昭窯の手前に金城次郎窯、向かいに金城敏幸窯の工房兼販売所が仲良く並んでいた。次郎窯は長女の宮城須美子さんが後をつがれている。敏幸さんは次郎さんの弟子である。急いで3軒を回り作品を見せてもらった。それぞれで少しずつ購入し帰路へ。本当はもう少し話をうかがいたかったのだが、仕事中に突然訪ねてじゃまをするのも気が引けて、それより帰れるかどうかも心配だった。しかし実際に作品と工房を見せてもらって少しだけ何かわかったような気がした。

金城敏昭窯 読谷村字座喜味2677-3 TEL 098-958-2878
R58喜名交差点を西へ入り標識に従って進む

多少の渋滞につかまったが何とか無事に車を返し街に戻った。今夜の夕食は昨日食べ損なった「なかむら屋」である。気取らない琉球家庭料理の店として有名なこの店に集う客の殆どが地元の人だ。のれんをくぐると左手前から奥に向かってカウンターが続いていて、その向こう側には新鮮な地元の魚が並ぶ。

店に入ったときは満席状態で常連らしい人が席を譲ってくれた。泡盛の古酒を飲りながら、本場のゴーヤーチャンプルーやミミガーをつまむ。思ったよりあっさりした味付けで幾らでも食べられそうだ。御飯党の私には御飯とみそ汁付きの「なかむら屋定食」が注文できたのもポイント。ナーベーラーの味噌味も御飯のおかわりを誘う。

刺身の選びかねていると「1000円ぐらいで盛りましょうか?」と聞いてくれた。あえてサービスしているという感じではないがこちらの気持ちを察してくれる。そして出てきたのはこれで1000円かというボリューム。初めてでもゆっくりとくつろげる。人気の理由がわかった。

なかむら屋 那覇市久茂地3-15-2 TEL 098-861-8751

※ゴーヤー=にがうり、ミミガー=豚の耳、ナーベーラー=へちま

満腹のお腹をかかえてホテルへ戻った。どんな部屋が用意されているのだろう。エレベーターの扉が開いた瞬間に違いがわかった。エレベーターホールと部屋へ続く通路の間に自動ドアが設置されている。ここにガードマンが立っていたら高級ホテルの最上階である。さらに期待感が募る。今まで泊まったことの無いような・・・。

現実は甘くない。違っていたのはテレビの大きさと、有線付きのラジオ、そしてウォシュレットが付いていたことぐらいであった。現実をかみしめながら、同時に私は満ち足りた気分を味わっていた。

なぜだろう。ここに来てたかだか2日しか経っていないが妙に懐かしい。時間がゆっくりと流れていくのがわかる。ウチナータイムという言葉があるらしい。時間を気にせず人生を楽しむ。そんなに急いで何が楽しいんだと笑われているようだ。楽しんでいるから人も優しい。どうもこの土地と人にとらわれてしまったらしい。


朝飯はやはりまずかった。しかし前日の経験から注意深く一品を選択しそこそこの朝食を済ませ、ホテルを後にした。これといった予定を立てていなかったので、空港に近いスポットを探してみた。結局伝統工芸館に行くことにした。

朝は早く出かけてみるものだ。他に観光客もまばらでゆっくりと見学できた。2階の扉から外に出てみると沖縄の空がまぶしい。この空の色を覚えておこう。続く廊下に幾つか部屋が並んでいた。何気なしにのぞいてみると、実際に陶芸や吹きガラスを体験出来るようになっているではないか。訊ねてみると受付で申し込めば当日でも参加できるらしい。良質の工芸品を見て回った後だけに勘違いも甚だしい。同じものを作るつもりで琉球ガラスのコースに申し込んだ。

在日米軍が持ち込んだコーラのびんの処理に悩んで発展したとも言われる琉球ガラスには独特の風合いがある。私のお気に入りは泡入りの水色ガラスである。残念ながら泡入りガラスは原料が違うらしくて体験できなかったが初めての経験に時間がどんどん過ぎていきあっという間に終わってしまった。

ていねいに教えてくれるので初心者でも完成品を手にすることが出来る。肺活量に自信が無くても大丈夫だ。出来たグラスは丸1日冷却がまにおいてから送ってくれる。帰ったら早速マイグラスで泡盛と豆腐ようを楽しむとしよう。手作りは素敵だ。体験コース2500円(送料920円)別途入場料300円。

那覇市立伝統工芸館 那覇市当間1-1 TEL 098-858-6655


エピローグ
帰りの飛行機は午後便だったので、短かった旅の終わりをゆったりとした気分で過ごせた。もっといろいろなところへ行きたい気持ちもあったがこの度に満足していた。飛行機の座席に座り「やれやれ」といった気持ちで離陸を待っていると、機内アナウンスが流れ出した。「当便でオーバーブッキングをしてしまいました。御客様の中でお急ぎでない方がいらっしゃいましたら後続の便に変更していただけませんでしょうか。この場合、夕食代、宿泊費などの負担はJALが・・・」


今度の旅ははじめからどこか違っていた。短い間だったが行き当たりばったりのことが多かった。そしてどこへ行ったときも必ず人々は暖かく迎えてくれた。ほんの短い間だけ接してすぐに通り過ぎていってしまう旅人なのに。この経験を大切にいつまでも忘れないでいたいと思う。そしてまたきっと沖縄を訪れるだろう。

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