里山便り「音羽山から」01.12.15(最終回)


大文字山から見た山科市内

1年間お世話になった音羽山

春を期待させるワラビ

無粋な立ち入り禁止の電波施設

自然の大理石

ツルリンドウ

ヤブコウジ

シシャンボ

音羽山から見る大津と琵琶湖

音羽山から見る山科と京都

音羽山からの南景

山科の夜景

2001年12月15日 晴れ

7時半過ぎ、通学する我が末子と一緒に出掛ける。途中で別れ、琵琶湖疎水に沿って西へ向かう。初氷も見られるほど冷え込んだせいか、普段は散歩する人の多いこの道も今朝は行き交う人も疎らだ。疎水の流れは美しくはない。透明度は30cmほど、生臭い臭いが漂ってくる。この水が京都の飲料水となり、その排水が京阪神の飲料水となると思うと、大阪の水は飲む気がしなくなる。もう少し琵琶湖をきれいにしなくては。

疎水沿いの道は散歩をするにはいいが、単調で、30分も歩くと飽きてくる。そこで途中から谷の中に道を見つけ、そちらへ入ることにした。道はすぐに途絶えるが、稜線上に歩道がついているのを知っているので、そのまま登り続ける。幸い藪もなく歩道に出ることができた。

この辺りは安祥寺の裏山に当たり、植林後一度も手入れされたことがないかと思うほど細いヒノキが込み合って生えている。したがって展望はまったく利かない。今日はこの尾根を大文字山へ向かうことにする。3つ目のピークに山火事の跡があって南東方面が大きく開け、山科市街から伏見方面にかけて見晴らしが利く。ピークを下った峠で、毘沙門堂から南禅寺方面へ抜けるハイキングコースに出合うが、大文字山へはさらに尾根道を行く。

急な登りを過ぎるとまた山火事跡に出る。先程の山火事跡よりも高度が上がっているのでさらに眺望がよく、京都市街や音羽山方面も眺められる。この火事跡はワラビの枯葉に覆われていて、きっと春には沢山のワラビが採れることだろう。来春は少し覗いてみるか。

わずか歩いて思案処(6方向に分岐するところで、命名がいい)から上ってくるハイキングコースに出る。これから京都東山の稜線となり、梢越しに京都市街が時折望まれる。しかしヒノキの植林と、雑木林が交互に出てくる単調な道は、あまり楽しくはない。左右に幾本か枝道を分け、やがて大文字山の山頂に着く。午前10時過ぎ。樹林に覆われていて眺望はあまり利かない。山頂には2〜3人のハイカーと、数人のマウンティングバイクのツーリストがいた(自転車で山を走ると、繊細な自然に接することができないと思うが、彼らの目的はそこには無いのだろう)。

大文字の火床はここから15分ほど下ったところにあり、京都市街の大展望が得られるが、今日の予定とは反対方向なので、寄らずに如意ケ岳へ向かうべく来た道を引き返えす。これからは貧相なヒノキの植林帯となるので、この道に並行してついている、車の全く通らない(草が生えている)林道を歩いてみることにした。こちらの方が光の当たる分だけ変化がある。

林道は間もなく方向を変えてしまい、再び歩道に戻ることになる。しばらく登ると如意ケ岳の頂上に着くが、空港のアンテナ施設が占拠して立ち入りが禁止され、迂回することを余儀なくされる。反対側に出ると舗装道路が現れる。この施設への進入路だ。幸いゲートが閉まっていて一般車は通れない。道路は山の南面についており、山科方面がずっと見え続ける。やがて琵琶湖が見えてくると車道ともお別れだ。

車道を離れ歩道に入ると、すぐそばに大理石の小さなカルスト地形が見られる。自然の大理石を見たのは後にも先にもここだけだ。この辺りから自然林も増えてきて幾分心が安らいでくる。周囲が騒がしくなり、ヒガラ、シジュウガラ、ヤマガラといったカラ類が、群れをなし枝渡りしていくところに出会った。じっとして見ていると、なんと仕草のかわいいことか。と、ガサガサと物音がして樹を駆け上がる動物が。リスだ。何かの実をくわえている。山で小動物に出会うことはとてもラッキーなことだ。滅多に会える機会がないのだから。

しかしその幸福も長続きしない。ゴーという音が聞こえ、それが次第に大きくなり、やがて排気ガスの臭いもしてくる。国道161号線西大津バイパスの長等トンネルにある排気塔だ。そのすぐそばを通ることになり、排気が当たるところでは、木が黒ずんでさえしている。せっかく集めた排気ガスを、浄化もせずに排出するのはどうかと思う。排気塔の反対側は三井寺の境内で、緑が濃く対照的だ。

ここを通過してしばらく行くと、フユイチゴの赤い実が沢山実っていた。ちょうど空腹を感じていたので、少し腹に入れるとするか。これは甘くておいしい。空腹感も和らぎ、また歩き始めるとほんの少しで小関越、舗装道路が横切る。道路を渡り急な坂を登り終えると、この界隈で一番お気に入りの道に入っていく。コナラ、コシアブラ、タカノツメといった落葉樹が多く、それらの落ち葉が緩やかな傾斜の道を分厚く覆っている。

しかし今日はこの道を楽しく登ることができなくなってしまった。私の横を騒音と排気ガスを残してバイクが通り過ぎていったのだ。山の中でバイクに出会うほど不快なことはない。バイクに乗るのは道路だけにしてもらいたいものだ。

それでも落ち葉のたっぷり溜まった道を、葉を蹴散らし上り詰めると相場山頂上に着く。眼下に大津市街がよく見える。緩やかに下って、長等公園から照葉樹の多い逢坂山へ。ここでビナンカヅラ(サネカヅラ)を見つけ「名にしおはば 逢坂山の さねかづら 人にしられで 来るよしもがな」という百人一首の句を思い出した。

国道1号線上の歩道橋をわたり、私の開拓道を行くとまたフユイチゴに出合った。再び空腹を感じていたのでここでも口に放り込む。小さな住宅地を抜け杉林の暗い道を登ると、名神高速道路大津トンネルの真上に出る。ここを稜線伝いに音羽山へ向かい、一つ目のピークで遅い昼食とする。

コンロを出して湯を沸かし、ラーメンを作る事にした。湯が沸くまで待ちきれず、半個ほどポリポリかじって食べた。残り1個半でわかめ、ニラ入りラーメンを作る。具は少ないが2個のラーメンは少し食べ過ぎだろうか?

30分ほど休み先を急ぐ。この道も私の気に入っている道。しかしここでもバイクのタイヤ跡を見つけることになってしまった。また思い出してしまう、あの不快感を。周囲の木はすっかり落葉し、冬枯れの風情となったこの道は楽しい筈なのに、とても哀しくなる。

やがて音羽山頂上、午後3時。夕暮れまでまだ2時間はある、先へ進もう。東海自然歩道を南へ下り、途中からダム湖への道に入る。この辺りはずっと自然林が続き、ようやく心が安らぐ。大文字山からたどって来ると、この辺りの自然林の素晴らしさをしみじみ感じる。やはりこの周辺では最高のところだと思う。身近な山に登るとなると、どうしてもこの辺りに足が向くのも故ないことと納得する。

夕暮れも近くなってきたので、今日はダムの堰堤を渡り、最短コースをとって京都国際ゴルフ場の入り口辺りを目指すことにする。ゴルフ場の裏は、造成当時から今日までの無数のごみが投棄されていて、目も当てられない。

車道へ出、それを上醍醐寺方面へ行く予定で歩き始めたが、プレー帰りの車が次から次へと追い越して行って面白くなく(中にはクラクションを鳴らす車もあってなおさらである)、途中から北へ方向を変え山道に入ることにした。

間もなく日没。夕日が山陰に入ろうとするところだ。先日のナメコ採りの轍は踏まないよう、懐中電灯を出して点くことを確認する。落日後は暗くなるのが早い。山科から伏見にかけての街の灯が、梢越しに次第に増え明るくなっていくのが分かる。尾根道から下山路に差し掛かるころには、とうとう懐中電灯が要るようになった。

かなり下って送電線の鉄塔下に出ると、視界が完全に開け、ぱっと花咲いたように夜景が見下ろせた。これからは急な巡視路の下りとなり、もう懐中電灯なしでは歩けない。

すっかり街の灯が近づくころ舗装道路に飛び出す。それからは市街地を歩き続け、山科駅前にたどり着いた時はもう6時を過ぎていた。

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福本さん、1年間に渡る連載有り難うございました。通過するだけの点としての山ではなく、生活の中に山というものをとらえ、愛おしんでおられるのが良く伝わってきます。これからも音羽山を愛し守っていってください。

次回からは、芦生編が始まる予定です。御期待下さい。(編)


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