里山便り「音羽山から」01.08.17〜18


クサギ

サンカクズル

シロモジ

ミヤマウズラ

シシガシラ

タケニグサ

ヨウシュヤマゴボウ

ホツツジ

牛尾観音

ヘクソカズラ

ヤブラン

ツユクサ

キンミズヒキ

ヤマノイモ

ヒヨドリバナ

クズ

コアカソ

2001年8月17日〜18日 曇り

夜8時ごろまで仕事をしていたので、家へ帰り荷造りをしていると出発は午後10時45分頃となってしまいました。

子供の野外活動で夜間ハイクをしようと言い出したのは私で、今日はその義務的下見なのです。冬には何度か夜中に山を歩いた事がありますが、真夏は初めて。いろいろな動物が活動している季節ですから、さて何に遇うやら。不安と期待一杯と言いたいところですが、どちらかというと正直怖さだけです。

音羽川沿いの道を車で走り、終点の桜の馬場で下りると、そこはすっかり真夜中。午後11時ちょうど出発となりました。足元はマムシ除けのため膝までの長靴。木の棒を杖にし懐中電灯を照らして、さあ夜間ハイクの始まりです。

最初は谷沿いの道を行く事になり、足元にマムシがいやしないだろうかと細心の注意を払って目を凝らし、また何か音が聞こえてきやしないかと耳をそば立て、草が覆っているところは棒で草を払いながらと、緊張の連続です。

標識に光が当ってキラッすると、ドキッとし、ガサッと音が聞こえるとビクッとし、ストレスの感じる事この上もありません。「こんなところで人に出会ったら卒倒しそうだなあ」とか、「こんなところを歩きながらだと、怪談がいくらでも作れそうだなあ」などと余計なことを考えて、いっそう不安にさせながらも、奥に進んで行きます。

周囲からは虫の音がずっと聞こえ、足元にオサムシとアカガエルを発見しました。曇っていて月は見えませんが、意外と明るく林を抜けたところでは、電灯なしでも歩けそうなほどです。それは市街地に近い山なので、街の灯りが雲に反射しているためだと分かります。林の中でも、自然林は多少明るいのですが、人工林に入るととたんに暗くなり怖いほどです。

谷も終わりに近づく頃、足元に菜箸ほどのヘビ(ジムグリ)がゆっくり動いているのに出会いました。このヘビはとてもおとなしいのですが、強烈な不快臭があって触れると水で洗ったぐらいではとれないのです。捕まえて遊びたいところですが、あの臭いを考えるととても手が出ません。そっと眺めているだけにします。

やがて稜線へと出てきました。夜景がきれいに見える事を期待していましたが、残念ながら木の葉にさえぎられ、垣間見る程度でどこであるかも分かりません。

稜線の道をしばらくたどると京都国際ゴルフクラブへ続く車道に出てきました。道は舗装され、足元も割合はっきりしているので、ここは電灯を消して歩くことにします。風はほとんどなく、葉のそよぐ音も聞こえません。それでも神経だけは鋭く尖らせているのでしょう、自分のザックが擦れる音にもビクッとしてしまいます。

20分ほど歩くとゴルフ場です。クラブハウスの非常出口灯でしょうか、その灯りがほのかに見えるだけで全く人気がありません。この先千頭岳へのハイキングコースは、ゴルフ場の外縁につけられた林道を行きます。しかし、誰もいないゴルフ場、ここは失礼してコース内を歩かせていただきましょう。

緩やかに起伏する芝生の大地は広大で、かって月夜に大雪山の雪原を歩いたときの快感(この広大な世界に一人いるのだという快感)、を思い出してしまいました。振り返ると伏見方面の夜景も望まれ、前方に広がる芝の大地を一歩一歩味わいながら歩いていると、孤独感も恐怖感もどこかへ吹っ飛んでしまい、じんわりと満足感が滲みあがってくるのを感じます。

が、突然目指す方向に光が。かすかな、懐中電灯のような物から発せられる光でしょうか。しかしそれはすぐに消え、再び光りはしません。一瞬目を疑いましたが、間違いなく光ったのです。一体誰が、何のために、こんな所に!

心臓が凍りつかんばかりの恐怖が這いあがり、体は強ばっています。しかし目的の方向と同一であれば進まねばなりません。

50mほど余りに近づき「オーイ、オーイ」と叫んでみました。その声は引きつって悲鳴のように聞こえます。突然たくさんの灯が灯り、数人の人影、その背後にトラックのような車が浮かび上がりました。恐怖は頂点に達し、すぐにも逃げ出したいほどでしたが、よく見るとそのトラックは赤い色をしているよう見え、もしかしたらという思いでその方向に向かって歩み出しました。

近づくと、屈強そうな男達がこちらを伺っているのが分かります。思わず「それは消防車ですか!」と声を上げてしまいました。すぐに「そうだ」という答え。今まで続いてきた極度の緊張状態が一瞬にして解け、全身の力が抜けてガクガクと膝が折れてしまいました。

聞けばすぐそこで小規模な山火事があり、鎮火はしたが警戒のため待機しているのだとのこと。しばらく話し込んで、やっと歩き出す力を回復、再び山の中へ入って行きました。

千頭岳山頂は最後急登し、午前1時着。山頂からの眺めは全く得られず、留まる事もなく、早々に音羽山へ向かう事にします。いくつかの階段を下り、平坦となったところで、電灯を消して立ち止まり、静かに音を聞くことにしました(野外活動の事前体験です)。その間10分ほど。しかし落ち葉の移動する音以外、動物の足音などは聞かれません。

そこで再び出発。歩き始めてすぐ「ヒンッ」と闇を切り裂く鋭い鹿の警戒音。ガサガサと落ち葉を蹴散らし逃げ去る音。一瞬ビクッとしましたが、先ほどの恐怖体験にすっかり鍛えられ、もう怖さを感じる事はありません。

その後は、樹林越しに大津石山、瀬田方面の夜景がちらちら見え隠れする中を数度登り返し、午前2時少し前、音羽山山頂に到着となりました。遮るもののない山頂からは、京都方面一体がまるで灯の海のように見え(陳腐な表現ですが)、大津側は、坂本辺りから琵琶湖大橋のイルミネーションまで眺める事ができます。広大な夜景を眺めていると、一人で山にいることすら忘れ、安らかで豊かな気分にすら浸ってくるものです。夜景を十分堪能し、頂上横の樹林の中にツエルト(簡易テント)を張って眠る事にしました。

翌日は午前6時に起きて、テントを片付け下山。曇っていてすがすがしいとは言えませんが、早朝の山は、夜を過ごした生命達が活動を始める、新鮮な魅力に充ちています。今年生まれた子供もいるのでしょうか、鮮やかなヤマガラが数羽梢を渡っていきました。アカゲラのドラミング(キツツキが木をつつく音)が軽やかに響き渡り、生命の躍動を感じます。

クサギ、ホツツジ(もう終わりです)等の花や、シロモジ、サンカクズル(ブドウの一種でおいしい。この時も写真を撮った後いただきました)等の木の実を見つけながら、実にゆっくりと朝の山を味わい下りました。

牛尾観音を過ぎるともう桜の馬場。辺りにはヨウシュヤマゴボウ、ツユクサ、キンミズヒキ、クズなど、里の花が咲いています。

車に乗ろうとすると、ミンミンゼミが鳴き始めました。「ミーン ミンミンミンミンミンミン ミーン・・・・・」


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