里山便り「音羽山から」01.06.23


ムラサキシキブ

リョウブ

アカメガシワ

テイカカズラ

オオゴムタケ

ウスヒラタケ

シャワークライムした滝

イタチタケ

サワギク

ムラサキフウセンタケ

コアジサイ

ウスノキの実

カエル

ニガイチゴ

ドクダミ

オオホウライタケ

マタタビ

ヤマアジサイ

ヤブヘビイチゴ

2001年6月23日 雨

青空の存在すら忘れかけるほどうっとうしい梅雨空が続き、この日も朝から雨。いったん止んだ昼過ぎ、長靴を履いてカッパを入れたザックを背負って出掛けることにしました。

家(といってもマンションですが)の前は旧東海道で、これを東に進むとやがて逢坂の関に出ます。家を出てこの道を少し東へ行くと国道1号線が斜めに横切り、これを反対側へ渡ると追分町という街です。奈良街道との分岐点となっていて、ここで荷を負い分けたのが地名の由来とか。今も残る古い家並に往時の面影が忍ばれます。

街を抜け、頭上に名神高速道路の橋梁を仰いでくぐりぬけた辺りから、山へ入ることにします。この付近にはアカメガシワやムラサキシキブの小さく目立たない花が咲いていますが、よほどの人でもないと気付かないか、たとえ気付いても気にも留めない事でしょう。

とある宗教法人の教会建設予定地を突き抜け、踏み跡を伝うと送電線の巡視路に出てきます。巡視路は谷の中に付けられていますが、すぐに尾根へ上がってしまうため、ずっと谷の中を行こうとすると、道の痕跡のようなところを選びながら進むことになります。下草が覆い雨も降り出してきたのでここで上下のカッパを身に着けることにしました。

木立が空を覆って谷の中は薄暗く、湿度も十分にあるので、倒木に何種類かのキノコを見つけることが出来ます。イタチタケ、ウスヒラタケ、オオゴムタケ。いずれも食用になるのですが数が少なく持ち帰るまでもありません。今日ここへ来た目的の一つに、オオゴムタケを採ることがあったのですが、残念です。昨年はたくさん採れました。

このキノコの食べ方は、キノコ料理のイメージを払拭してしまうことでしょう。黒い外皮を剥くと、中は半透明のところてんのようなもので充たされていて、これを茹で、黒蜜やきな粉を付けて食べるのです。酢醤油でもいけます。この季節によく見られるので、ここがだめでもこれからまたどこかで出会えるでしょう。

樹に絡み付いている常緑のつる植物はテイカカズラで、スクリュー型をした薄いクリーム色の花をつけています。あちこちで落花をよく見かけますが、花の形が特異なので一見してそれと解り、間違えることはありません。

いつのまにか道の痕跡も消え、やむなく沢の中を歩くことにします。雨が続いていたので水量も多く、普段は細い流れの滝も、今日は立派な滝となっています。5m前後の滝が続き、いずれも直登できますが、長靴だと足裏の感覚が鈍く、岩のかかりがはっきり伝わらないので多少不安です。それでもシャワークライミング(水しぶきを浴びながら滝を登ることで、普通はびしょ濡れになるのですがカッパを着ているので衣服は濡れません)まで楽しめました。

更に進むといよいよ傾斜がきつくなり、水の絶える頃には木の根元をつかむか、四つんばいにならなければ登れないほどの急斜面となってきました。足元にサワギクが黄色く可愛い花を数輪咲かせ、見上げるとサンショウの青い実が鈴なりに実っています。ここへ来た目的がこのサンショウの実を採ることにもあったので、勿論頂くことにしました。

その後も手足を使って登りますが、けもの道に出会うとほっとします。そういう道は決まって斜めに緩やかに登っているからです。また足場も切られているので(ヒズメで掘られて道が足場のようになっている)、手を使わなくても登ることができます。ただ、彼らと目的方向が一致するとは限らないのが難ですが。

急斜面を登りつめると、小山台から電波搭に続く道に出てきました。その道沿いでは、ムラサキフウセンタケ、モリノカレバタケ、ニオイコベニタケなどのキノコを見つけることができました。このニオイコベニタケはよくカブトムシ様の匂いがすると本に書かれていていますが、実際に匂うと不思議なほどそっくりな匂いがするのです(カブトムシの匂いを知らない方には理解できないでしょうが)。

電波搭から東海自然歩道に入ってすぐ、花をつけたコアジサイを一株見つけました。付近にはこの木がたくさんあるのですが、既に咲き終わった中で、たった一株だけきれいに花を咲かせ、まるで私を待っていてくれたかのようです。

時々ガス(霧のこと)のかかる尾根道を、だらだらと登り続けると、いつしか音羽山の山頂へ出てきました。雨は依然として降り続き、見渡す山には雲がかかっていますが、途切れた雲の切れ目から千頭岳付近が見えています。

山頂の隅の方に赤い実をたくさん実らせたウスノキが見つかりました。掌いっぱいに集めて一気に頬張ると、水っぽいながらもさわやかな甘さが口中を満たし、喉の渇きも癒してくれます。木の実としてはまずまずの美味しさでしょう。

頂上からの下りは、天狗岩直下の谷へ直接下りて行く道をとることにします。雨が続いているせいで下り始めて間もなく水流が現れ、その流れの中を長靴でジャブジャブ歩くと、何かしら楽しくなってくるものです。

天狗岩の下を通過して下りつづけると、流のほとりにニガイチゴが赤い実を実らせているのに出会いました。果肉が苦いわけではなく、種の部分が苦いのでそういう名がついています。ですからこの実を食べるときは、噛まないように舌で潰しながら食べるのです。

さらに下ると、アカメガシワの倒木が流れ横切っているところへ着きました。今日はこの倒木上にアラゲキクラゲが見事に群生しています。今年になり何度も来たところですが、やっと出会うことが出来ました。勿論頂いて帰ります(千切りにしてごま油で炒め、煎り卵とあえて戴きました)。

音羽川が近づいてきた頃、たくさんの花をつけたヤマアジサイに出会いました。雨の中でこそ一層映える控えめで上品な花で、栽培種の西洋アジサイからは感じられない気品を漂わせていて、私はこの季節の山で最高に美しい花のひとつだと思っています。

音羽川沿いの道路に出てからは、普段の倍ほどにまで増水した流れに沿って、その流れの音を聞きながら、またその音の中にかすかなカジカガエルの声を聴きながら、しかし足早に家路を急ぎました。対岸の木に絡み付いたつるの葉が一部白く変って気をひくのはマタタビで、その特異な景観は遠目にもそれと解ります。何故か夏の間だけ葉が白くなるというのも不思議です。

道端にオオホウライタケを見つけました。それから赤いヤブヘビイチゴの実も。そしてまもなく街へ。

家に着くまでカッパを脱げない山歩きでしたが、山中一人の人に出会う事もなく、私だけの山を、静かな山を楽しめた一時でした(人にあわずとも動物にはよく会いました、ヤマドリ、鹿の逃げ去る音、カエル・・・)。

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