里山便り「音羽山から」01.02.24


マメヅタ

音羽の滝

波切不動

ヤマネコノメソウ

杉の花

音羽山山頂から山科方面

落ち葉におおわれた道

カワラタケ

アセビ

2001年2月24日  天気 曇り
昼頃まで時雨れていた空も幾分明るくなり、山の雲も取れてきたので音羽山へ出掛けることにしました。今日は自宅から歩きです。山沿いの住宅地を通り過ぎ20分ほど歩くと、道は音羽川沿いに山の中へ入っていきます。

この道は少し前まで未舗装で、静かなハイキングコースになっていたそうですが、上流に一般廃棄物の最終処分場を造成するに際し舗装したということです。そのため夏ともなれば涼を求める人達の車が何台もやって来ますし、大きなゴミも捨てられ、今ではとても快適なハイキングコースとは言えなくなりました。それでもこの季節、通る車も稀で、舗装道路の硬さと時々目にする不法投棄のゴミさえ我慢すれば、それなりの楽しみも見つかるものです。道沿いでは、小指の先程の円い葉をしたマメヅタに、びっしりと覆われた岩や樹を所々見かけます。湿気の多い暖地の川沿いには普通にあるのですが、見慣れない人には珍しいのか、よく名前を尋ねられます。道端に目をやると、ここ2〜3日の暖かさのせいでしょう、ムラサキケマンの開き始めたばかりの若葉が見つかりました。ジロボウエンゴサクの弱々しげな若葉はもうすっかり開いています。

音羽川はやがて渓流となり、聴呪の滝(恐ろしい名前ですが)や音羽の滝などの小さな滝を懸け、それらの滝の幾つかは道路から見ることができます。しかしその全てを見るためには、沢登りでもしなければなりません(私は一度川の中を登ったことがありますが、けっこう楽しめます)。渓流の途中に波切不動というお不動さんがあり、夏でも枯れない湧き水があって、近所の人がよく汲みにやってきます(私も週に1度程度ポリタンクを持って来ます)。今日はここでヤマネコノメソウの花を見つけました。岩の間に張り付くように咲いています。もともと地味で目立たない花ですが、目の前の花は殊に背が低く、余程注意をしないと気が付かないほどです。それでも音羽山で今日はじめて見る花でした。

渓流が終わり、流れが緩やかになると左から小さな谷が合流します。音羽山の頂上付近から流れる出る谷で、流れに沿って歩道があり、一部のガイドブックに紹介されていますが、今はがけ崩れのため通過が大変です。しかし道中にはキノコの生える倒木が多くあり、これを期待して今日はこの谷に入って行くことにしました。

谷の中で冬枯れの木立を背景に浮き出るように見えているのは、白っぽい枯れ葉をいっぱいにつけたヤマコウバシです。この木はいつまでたっても葉を落とさないので、今頃山を歩くと否応無しにその存在を知らされます。垂れ下がった枝先にこの季節の嫌われ者、杉の花を見つけました。積もった花粉が舞い上がるようなところをよく歩きますが、私はいまだに花粉症には縁がありません。一部で言われるように、本当の原因は花粉以外にあるような気がします。がけ崩れの痕を過ぎ、アラゲキクラゲをよく見かけるアカメガシワの倒木のところへ来ましたが、今日は小さなものがほんの少し生えているだけでした。

急な登りを続け右頭上を注意していると、谷から垂直に20〜30mほどの高さにそそり立つ岩が見えてきます。天狗岩と言われているそうで、この岩へ登る道を2年ほど前に私が切り開きました。最近は手入れを怠っているので少し荒れていますが、この道を行くことにします。たどり着いた岩の上は4〜5人が座れるほどの広さで、眺めがすこぶるよく休憩するには絶好の場所です(先端に立つにはかなりの度胸が必要です)。岩の上で一休みし、展望を楽しんでから更に上へと、蕾の膨らみ始めたシキミの群生する中を登り、東海自然歩道へ飛び出しました。登って来た反対側には、木立の合間から瀬田川方面が見えています。この歩道を北にしばらく登ると目的地、音羽山の山頂です。

雨上がりで遠くの山は見えませんが、眼下に京都や大津の市街、琵琶湖などが望まれ、まずまずの眺めといえるでしょう。晴れた日には遠く白山まで望まれ、2年前の4月初旬に真っ白に輝く白山を見つけた時は、あまりの美しさに強く惹きつけられ、早速翌週に登りに行ったものでした。

ここから北へ延びる東海自然歩道は、途中より人工林の中に入り、急な階段の道となってつまらなくなるので、私はいつも一本東側の尾根にある道を下ることにしています。山頂よりしばらく下って自然歩道と分かれ、、緩やかな広い尾根をだらだらと下るか細い道に入って行きました。辺りは比較的大きな樹の自然林で、歩道上には落ち葉が敷き詰められ、心地よい感触が足に伝わります。ホオノキやコシアブラといった大きな葉をつける樹が多く、初冬のこの道はそれらの枯れ葉をガサガサ蹴散らしての下りとなり、最高に幸せな気分にさせてくれます。数多くある音羽山の道のなかで、私の一番気に入っている道です。

冬枯れの木立の合間から琵琶湖方面を望みつつ、次第次第に高度を下げ大津の街が近づいてきました。道の傍らには、1本のアセビが早くも鈴なりに花を咲かせています。更に下り続け車の音がうるさく感じられる頃、道は90度折れ曲がって静かな谷の中に入り、やがて山あいの住宅地に出てきました。住宅地の入口にはヤブツバキの花が2輪咲いていて、まるで私を出迎えてくれているかのようです。

これから京阪大谷駅までまだ少し歩くことになりますが、国道を行くのは車が多くて厭なので、昨年開拓した山越えのコースをとることにしました。

突然、頭上にけたたましい声を聞き見上げると、10羽近くのヒヨドリがアオハダの梢で実をついばんでいるところでした。この辺りにはこの木が多くあり、赤い小さな実を無数につけた10mあまりのその木の、葉を落し、実だけになった姿はまるで紅葉したカエデかと見紛うほどです。

最後は再び東海自然歩道と合流し、蝉丸神社の階段を下りるとほどなく無人の大谷駅に到着です。今日の山に想いを巡らしながら、鄙びたホームで電車を待つことにしました。

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