番外編「残雪行」03.03.16.


雑木林の登り

自然のコントラストが美しい

手倉山から上谷山

ヤセ尾根と雪庇

急斜面にテント

山頂まであと一息

山頂にて

山頂から三国岳

山頂から三周ヶ岳

山頂から笹ヶ峰

江越国境

樹氷

2003年3月16日  晴れのち雨
前夜9時にJR山科駅で待ち合わせ、朝昼食を買い込んで出発する。参加者は結局tomoさん1人のみ、里山クラブとしてはハイクラスの山で、実際彼女のために企画したような山旅である。

朝からの雨も昼過ぎには止み、出発の頃には月さえおぼろげに現れ、天気は確実に回復に向かっているようである。午後11時20分登山口広野に着くが、翌日の天候や積雪状態により美濃俣丸に登っても良いと考えていたので、広野ダムを一巡りしてその登山口を偵察に出かけた。しかし夜の初めての山は不安感を抱かさせるうえ、何より一度も登っていないという決定的理由により、美濃俣丸は止め予定どおり上谷山に登ることにして、ダムサイトにある公衆トイレ横にテントを張る。

翌朝5時40分起床。tomoさんの携帯電話からけたたましい目覚まし音楽が流れ、何事かと跳ね起きた。外へ出て空を見上げれば快晴、夕方から雨との予報は完全に外れたかと思えるほどのすばらしい天気である。もしも天気予報が当たれば大変、早く出発するに限る。テントと寝袋を素早く片付けて登山口まで下り、雪山用の身支度を済ませて6時20分出発。

氷が張っていて気温は氷点下だと思われるが、辺りにはほとんど雪が残っていない。寺院の石段を登りつめてお堂の裏から山に入る。始めからの急登で少々応えるうえ、薮が時々ひどくなって最初から厳しい出迎えだ。このあたりに残っている雪は今月に入ってからのものらしく、軟らかくて在るとかえって邪魔になる。2本目の集合アンテナ8時40分、ここで朝食。

陽も上がり、眼下の広野ダムを隔てて美濃俣丸から笹ヶ峰への稜線が間近に美しく輝いてそそり立っている。マルバマンサクも咲き始め、この花を楽しみにされていたtomoさんはこの花を見て、「かわいいじゃないですか。ゴミのようなとはひどい。」とおっしゃって、昨年春の『里山便り』にそう書いた私は叱られてしまった。少し離れた梢では、ウソ、ヤマガラ、シジュウガラ、エナガの姿を認めることができ、アカゲラのドラミングの音も聞こえてくる。20分ほど休んで再び出発。

この辺りから徐々に冬の雪が残り、薮も薄くなってきて残雪の山に登っているという雰囲気になってくる。しばらく登ると、ダムの少し上からダイレクトに登ってきたのだろう、昨日のものと思われるワカンの跡に合流し、その後はそれを忠実にたどることにした。足跡はよく締まり全く沈まないので、夏の道を歩いているように快適に足が進む。3箇所ほど急な登り、それもそんなに長く続かない登りを越えると手倉山山頂、9時40分。

ここで始めて目的の山、上谷山が姿を現すがまだ先は長い。千里の道も一歩から、休まず弛まず歩けばいずれは山頂にたどり着ける。トレーニング不足のtomoさんは少々疲れが出てきた様子、少し休んでから出発。いったん下って登り直すと、このコース唯一のやせ尾根(といっても東側だけが落ちているだけであるが)、東側には立派な雪庇ができていて、これを踏み抜くと命取りになりかねない。これが滋賀県境まで続き、県境にたどり着くと上谷山は眼前にあり、その白い姿は透きとおるように美しい。

昨日の雨はここでは雪であったらしく、新雪を戴き一層白さが際立つ。ここにテントが一張り、たどってきたワカンの主のようだ。おそらく三国岳へ出かけたのであろう、その方向に足跡が続いている。ここから江越国境尾根を西に向かっていったん下り、真っ白い雪の斜面を登り直すとそこが上谷山の山頂、標高1196.7m、11時10分。

真っ白く広い頂上だ!360度の大展望でぐるり一回り見渡せば、近くは横山岳、三国岳〜三周ケ岳〜笹ヶ峰〜金草岳が。その向うに能郷白山、部子岳、北アルプス、白山。目を転ずれば比良の山や日本海らしきものまで見渡すことができる。今日で4度目の山頂であるが今までで最高の眺望である。tomoさんはこの山を独り占めするかのように雪面にうつ伏せになってしばし張り付いておられた。

残雪の山に始めて登ってからもう25年以上にもなるが、最初の山旅でその魅力に取付かれたまま現在に至っている。一年を通じての山歩きの中でも、残雪の山が最高に素晴らしいと思う。きっとtomoさんも病み付きになってしまわれたに違いない。しかし天気は急速に崩れ始め、瞬く間に青空は消え失せ、南風が強く吹き始めてきた。昼食も寒くてゆっくり摂ることもできないまま、20分ほどで山頂を後にする。

登りは苦しいが、雪山の下りは楽しい。雪の下りを楽しみにされていたtomoさんは、思う存分楽しまれたに違いない。手倉山までは登りもあってさほど早くは下れないが、これを過ぎるとほとんど下りとなって軽やかに足が運ぶ。ポツリポツリと降り出した雨は、登山口にたどり着く頃には本降りとなっていた。天気予報よりも早い崩れであったが、14時10分無事出発地にたどり着く。

下山後余談帰路、今庄から敦賀までは旧北陸本線跡を通る。途中トンネルがいくつかあり、それが鉄道トンネルそのままなので車1台しか通れない。そのトンネルを走っていると列車の運転手になったような気分になれる。一度ここを通ってからすっかり気に入り、毎回ここを通ることになってしまった。

敦賀を通過中のこと。白い光景が脳裏に張り付き、その残像を反芻しつつ運転していると、後方からパトカーに呼び止められた。気付かないうちに一時停止の標識を見落としていたらしい。20数年ぶりの青切符。すばらしい山旅の後なので、「少し交通費が高くついたなあ」と思えば納得できた。これが往路であれば、悔しくて山を楽しむゆとりができなかったかも知れない。そう考えれば帰路での出来事で幸いした。

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