「冬枯れハイク」03.03.09.


摘み草

ノビル

ホトケノザ

タネツケバナの群生

ウラジロの群生

雪の残る道を行く

本日の収穫

青竹酒燗器

御飯は、ヨメナ御飯に

高級油の天ぷら

2003年3月9日・曇り時々雪

3月になってから、冬に逆戻りしたような日が続くようになった。その日の朝も、前日からの雨が雪に変わり、京都の町を巡る山々は白く雪化粧していた。 阪急長岡天神駅で待合わせ、バスに10分ほど揺られて奥海印寺で下車、9時15分出発。

今回の参加者は総勢7名。過去2回天候が悪くて続けて中止になったため、昨年10月のキノコ狩り以来のハイキングである。バス停から少し歩くとすぐに畑地が広がり、その畦道で摘み菜をすることにする。

雪が降ったり止んだりと、春とは名ばかり、「早春賦」の歌詞のように寒い日である。皆さんにこれから摘む草を覚えていただき、早速ヨメナ・ナズナ・スイバ・セリと摘のんでいく。ノビルはスコップで掘って球根ごと収穫。ヨメナやセリはまだ小さくなかなか収量が上らない。

小さな野草をしゃがみ込んで採っていると、その上に雪が舞い落ちてきて、百人一首の一句が浮かんでくる。「君がため春の野にいでて若菜摘むわが衣手に雪は降りつつ」と。数年前の今頃、同じく里山クラブのハイキングでここへ来たときは、数センチメートルの積雪に野草は隠され、雪を掻き分けての摘み菜であった。

しかし今日はそのようなことはなく、簡単に見つけることができる。野中の小屋や木立のかげからは「チッチッ・チッチッ」と寂しげなホオジロの声が聞こえてくるが、迷彩色で見付けにくい。畑地の中に、ホトケノザやタネツケバナの群生しているところがあり、まるで栽培しているかと見紛うほど、花も五分ほど咲いている。また畦道にはカンサイタンポポやオオイヌノフグリも花を咲かせていて、春の遠からじことを教えてくれる。

ここで時間を使い過ぎるとあとが大変、野草もたくさん採れたことだし、摘菜は打ち切り先を急ぐことにしましょう。畑地を抜けて谷沿いの林道に入り、これを奥に進んでいく。この林道沿いでは春一番の山菜、ニワトコの新芽を摘む。生だと独特の臭いがあるがてんぷらにすると全くそれが消えて美味しい。ただ食べ過ぎると下痢をするらしいが。

林道脇に、3月いっぱいイノシシ猟があるので注意するようにとの立看板があり、この季節に山へ入るときは、目立つ色彩の衣服をつけることが必要なのだと再確認する。15分ほど歩いて歩道へと入ると、すぐに丸木橋の架かっているところに出た。この橋は不安定で渡りにくく、また今日のように雪で濡れていると滑りやすく危険である。

そこで昨日のうちに1本木を渡し、通りやすくしておいのだが、これが大変役に立ち、皆さん手助けする必要もなく渡ることができた。それからすぐに始まる急な登り、木につかまって登らないといけないほどで、足を滑らす方もあり皆さん苦労していただきました。

この登りを越えればもう難所もなくなり、亜熱帯林の中に迷い込んだかのような、ウラジロとコシダの群生する中を緩やかに登ると、すっかり平坦な道となる。柳谷観音の駐車場横にある山田も休まず通り過ぎ、手入れされたコナラやクヌギの雑木林の中、わずかに雪の積もった道を登り終えると、やがて大阪環状自然歩道に出、南面が大きく開ける。

この時には雪は止み、視界も大きく開けて遠く室生山群までも見渡せた。もちろん近く淀川や男山あたりは指呼の間に見える。これからはこの自然歩道を素直にたどっていく(この道でタマキクラゲの生えた小枝を拾う)。

尾根から杉林の谷に入り、流れが出てきたところで昼食とする。水はすぐ横に十分な量で流れており、薪は杉林であるから枝や葉がたくさん落ちていて全く不自由しない。野草洗い、薪集め、焚き火と早速皆さんに手分けして作業に取り掛かっていただきます。焚き火でご飯を炊き、コンロでヨメナ・ノビル・スイバを茹でる。

ヨメナはご飯に混ぜて菜飯に、ノビルは、スイバは梅肉和えにタマキクラゲは味噌汁に、その他はてんぷら。また近くで竹を調達してそれにお酒を入れて燗をする。いよいよ食事も出来上がり、揚げたてのてんぷらを肴に燗酒をいただき昼食の始まり。

竹筒から呑む酒は格別の味、回りもすこぶる速い。スイバの梅肉和えは、(茹で過ぎて)とろけてペースト状になり、もともと酸っぱいところへ梅肉を入れたものだから、全部が梅肉のようになってしまった。「トーストに塗れば美味しいかも」というご意見はもっともです。

てんぷらは「グレープシードオイル」という贅沢な油で揚げとても美味しい、今日の野草料理で一番の美味しさである(野草のうまみではなく油が美味しかったのかもしれない)。その間も雪は降ったり止んだり、時に激しく降って、下界ではあまり見る機会の少ない「降りしきる雪」を体験する。

宴会?の間に、私達のそばを2組の中高年グループが通り過ぎていったが、その視線は羨望かはたまた軽蔑か、いずれとも言いがたい複雑な表情であった。

食事も終了し、薪を加えて火を強め、その周囲を取り巻いて、「今日は初参加の方がおられるので、自己紹介などを」という提案で、一人一人が山や里山クラブへの思いを語っていく。

このハイキングを始めてもう10年ほど、最初は年1〜2回だったものが今は2ヶ月に1回のペースとなり、たくさんの思い出が積み重なっている。全員が語り終わり立ち去るときが来た。川を汚さないために、食器類も洗わず紙で拭き取るだけ。ごみも一つ残らず拾って、このひと時を与えてくれた自然に感謝し出発。

帰路は大阪環状自然歩道を忠実にたどることにする。杉林の緩やかな谷から、急に勾配が強まり小滝が連なると、やがて水無瀬川渓谷に出てくる。川の水量は豊富で豪快な流れとなり、対岸に懸かる乙女の滝も太い流れで立派に見える。尺代集落から小さな峠を越えると若山神社。

この境内には立派なシイの木がたくさんあって、参道などにその実が今も落ちている。噛んで割ると中から白い胚が出てきて、まだ十分食べられることを知る。そこで急きょシイの実拾いが始まり、歩みが止まる(先に行っておられた方、お待たせしてすみませんでした)。

やがて終着若山台バスセンターに17時20分到着。「盛りだくさんのハイキング」とは、参加された方の感想でした。

文:福本 繁

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