「芦生散策」02.06.02


コアジサイ

ナガバノモミジイチゴ

ウツギ

モリアオガエルの卵

ミゾホウズキ

クラマゴケ

タニウツギ

ウワバミソウ

シライトソウ

三国岳山頂にて

コバノフユイチゴ

曲がりくねったアシュウスギ

ツガの木

2002年6月2日 快晴

JR山科駅で待ち合わせ、車に乗って朽木村に向かう。多少霞んではいるが快晴のハイキング日和。出発から1時間余り、針畑川沿いの朽木村桑原で積んできた自転車を置く(登山口へは下山しない予定なので、車を取りに戻るための自転車である)。

そしてそこから少し上流に行った古屋で車を降りる。午前9時45分。今回の参加者は私(福本)を含めて5名、今日が2回目のIさん以外は里山クラブの常連である。ここからゲートをくぐって保谷林道に入る。

カジカガエルの澄んだ声を聞きながら川沿いの林道を歩くのだが、ゲートのおかげで車が通れないので安心して歩ける。道端には、里ではすでに終わってしまった花がまだたくさん咲いていた。もちろん山の花も。

オヘビイチゴ、ヤブヘビイチゴ、キンポウゲ、キツネノボタン、ミゾホウズキ、ツボスミレ、カキドオシ、トキワハゼなど。山側から垂れ下がるのは、咲き始めたウツギ、コアジサイそして終わりに近いヤマツツジやタニウツギ。

食用になる木の実はナガバノモミジイチゴとヤマグワ。ただナガバノモミジイチゴにはわずかに食べられる状態のものもあるが、ヤマグワの実は赤くてまだ食べられそうにない。

目の高さぐらいのところに、白い泡状のものが2つ木の枝にぶら下がっていた。モリアオガエルの卵だ。最近雨が降っていないのでその下の地表は干上がっている。雨が降って水溜りのできることを祈らずにはいられない。

この辺りは大阪・京都近郊の里山と異なり植物の種類が豊富で、シダ類もクラマゴケやオシダなど成育する種類が違う。草木の名やその食・不食、名の由来など参加者の旺盛な好奇心を充たすため、逐一説明をしていると、いつになったら着くかと思うほど行程は遅々として進まない。

「林道の終点から引き返すことになったりして」という参加者の言葉が冗談に聞こえないのが恐ろしい。そんな妄想を振り払い、先を促す。林道終点付近で一掴みのウワバミソウ(山菜名ミズ)と10枚ほどのワサビの葉を採り、昼食用に持っていく。

川沿いのような川中のようなはっきりしない歩道を10分ほど歩くと、道は谷を離れる。そこで、最後に昼食用の水を汲む。これから始まる尾根道は岩谷峠まで登りっぱなし。しかしシデ類やナラ類・カエデ類などの夏緑樹に覆われ、その下にユズリハなどの常緑樹が生える雑木林。林床にはイワウチワやオオイワカガミが光沢のある葉を広げ、ギンリョウソウが半透明の花を転々と咲かせる心地よい道である。

10分ほど登った尾根上の開けたところで休憩にする。自然館の三田村さん持参のクッキーをいただき、雑木林を楽しむ。傍らにミズメの樹を見出し、少し樹皮を削ってあのサロメチール臭を匂っていただく。初めての方が多く「疲れたときに効きそうね」という感想に、その情景を思い描いて納得してしまった。

再び歩き始めるが、勾配を増す登りに参加者の声もやがて途絶がちに、しかしおかげで行程は随分はかどった。シライトソウの清楚な花に出会い、ユリ道(巻き道)に入ると間もなく岩谷峠にたどり着く。ここで登りもひとまず終わり、「少し休みますか?」と問いかけても「もう少し眺めのいいところで」との返事。

峠の反対側は芦生の森、こちら側も木立が深く確かに展望はよくない。峠からは小さなアップダウンを繰り返す。足元に散乱した無数の花を見つけて見上げると、ほとんど花の終わったサラサドウダンツツジが覆いかぶさっていた。今年は花の咲くのが本当に早い。

木立の切れたところから北東側の視界が広がり、百里ケ岳や比良の蛇谷ケ峰が望まれ、眼下には先ほど歩き始めた古屋方面を見下ろすことができる。琵琶湖も見えそうだが、今日は霞がかかっていて残念ながら識別できない。ほとんど休むというまでもなく再び歩き始め、最後急坂を登りつめると肩の上に出る。ここで道を離れ、少し藪を漕いで原生林の中へ入っていただいた。

5分余り入った下草の少ない所で昼食にすることにしザックを広げる。12時40分。辺りはブナの大木を主にした原生林の真只中、小さな尾根上はわずかに木漏れ陽が射し、柔らかな風が流れる本当に心地の良い空間だ。まずはコンロに火を点けワサビとウワバミソウを調理する。

ワサビはタッパーに入れて熱湯を注ぎすぐに蓋をして振る。冷めてから水気を切って醤油漬けに。ウワバミソウは茹でてお浸しに。三田村さん持参の具で特製ショウガ入り味噌汁を作りながら、赤ワインをちびりちびりと。こんな豪華なロケーションの中で飲むワインは格別のものがある。

ワサビは少し辛味があり「美味しい」との声。それに対してウワバミソウは特別の感想もなく、「かつお節を持ってくればよかった」というなんとも贅沢な発言。やがて味噌汁も出来上がりこれをいただきながら食事を始める。

気がつけばワインは早くも空になり、知らぬ間に三田村さん持参の清酒「五人娘」が注がれていた。山や食べ物のこと、過去の里山ハイキングのこと、今日のことなど話は絶えることなく流れ(話の中身は少し酔ったのかあまり覚えていないが)瞬く間に1時間半余りの時が過ぎていた。まだ三国岳山頂さえ越えていない、急がねば。

宴の後を片付け、豊かな時を与えてくれた森に感謝して出発。多少の酔いは効率を良くするのか、はたまた時間の観念が麻痺するのか、元の道に戻り最後の急登を越えると、いつしか三国岳の山頂にたどり着いていた。

山頂からは比良の武奈ケ岳方面がよく見えるが、それ以外は木立に遮られている。記念撮影を済ませ、午後3時、経ケ岳方面目指して出発する。これからはほとんど下り、原生林ではないが両側とも雑木林が続き、景観としては悪くはない。

しかし長い単調な尾根道はやがて飽きてくる。そんな中、曲がりくねったアシウスギや、枯れた木から新たな樹が生えているのに時々出会い、その自然の為せる造形に圧倒させられる。こういうものに美を感じるようになれたのも、里山クラブ参加者の感性に触れたからであって、新たな自然との関わりを教えていただいたこのクラブに感謝している。

経ケ岳との鞍部に4時に到着し、今度は最終目的地桑原目指して一気に下る。下り始めは谷の中をリョウメンシダが覆う美しい所、やがて尾根道になり、雑木林の中をただひたすら下って行く。途中にモミ・ツガの林がありさすがに北山だと思った。

最後急な斜面を下り終えると桑原、自転車を止めてあるところに飛び出す。時刻は午後4時50分。天候に恵まれ、山の中ではただ一人の人にも出会わない、我々だけのためのようなハイキングであった。

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