「芦生の森から」06.05.21.


ミゴ谷左股最初の滝

ミゴ谷左股

ウスギヨウラク

サルメンエビネ

ブナの芽生え

ブナの芽生え

ブナの芽生え

新緑のブナ林

サイコクミツバツツジとトコ迫出合付近の由良川

キンポウゲとトコ迫出合付近の由良川

トコ迫出合付近

トコ迫出合付近

トコ迫

2006年5月21日快晴・久多(ミゴ谷出合)〜経ケ岳〜三国岳登山道合流〜P941m西尾根〜由良川源流〜トコ迫〜岩谷出合〜大谷出合〜二ボケ〜府立大演習林南縁尾根〜久多(ミゴ谷出合)

久多川沿いの林道を溯り、ミゴ谷出合に車を止める。ミゴ谷の右股は上流一帯が植林されて歩道がついているらしく、最近は平良谷越を経て経ケ岳へ登る人が結構いるようだ。今日の予定はその左股、林道からでも入口に懸かる滝が見えている谷を登る。

最初から渓流足袋を履いて午前6時ちょうど出発、一昨日の雨で水量は多く、水温も1週間前より低いようだ。一週ごとに緑が濃くなり、その濃くなった木立に覆われた谷は、まだ朝が早いということもあって薄暗い。その薄暗さが、初めて入る谷への不安感を増幅させる。しかし、不安とは裏腹に、水量の少ない10mまでの小滝が幾つか出てくる程度のこじんまりした谷であり、逆層の登れない滝も多くあってあまり面白い谷ではなかった。

そして最後の詰めが急傾斜地で、文字どおり四つん這いになって這い上がることになる。ただ辺りは原生林かと思わせるほど大きくなった自然林が広がっており、薮も全くなく、嫌気を起こすようなことはない。水の涸れたところで渓流足袋から長靴に履き替えていると、頭上をアカショウビンが飛んでいった。これで今年になり2回目の出会いだ。

経ケ岳山頂の西50mほどの稜線に上がり、山頂午前7時40分着。展望の利かない山頂は通過し、そのまま三国岳への稜線を辿った。足元にヒメアオキの稚樹を発見する。本来芦生にはたくさんあったはずなのに、最近ではついぞ見かけたことがなかった。おそらくシカに食われて絶滅寸前まで追いやられたに違いない。しかしここ2年の多雪でシカが減り、辛うじて生き延びたヒメアオキがこうして葉を広げているのだろう。

『芦生研究林・植物の手引』という本を購入して山行の友としているが、これに掲載された植物で今まで出会ったことのない植物が多数あり、これらもシカの食害に遭っているのかも知れない。麓に住む方には申し訳ないが、今年も雪深い冬になることを心より願う。

雪のある頃には見晴らしの利いたこの稜線も、深くなった緑に遮られて全くといっていいほど展望が得られない。しかし、足元や頭上に花を探して歩いていると知らず知らず先へ進んでいるらしく、いつの間にか三国岳直下の登山道に出会っていた。三国岳の山頂へは寄らず岩谷峠方面に少し下り、三ボケ源頭から谷沿いにP941m北方へ出ることにする。

深い森に入るとすぐ、今までとは全く違う「気」を感じた。心地よい「気」に包まれ「その違いはどこから来るのだろうか?」と考えながら歩いていると、おそらく森の蓄えている何百年という時間の重さからだろうと思われてくる。

この森の中で夥しい数のブナの芽生えを見つけた。今月始めこの芽生えに初めて出会ったとき、すぐには何の樹か判らなかったのであったが、しばらく歩いていてまだ殻を被ったそれを発見し、それが「ブナ」の芽生えであることを知った。

危機的状態の中で、昨秋夥しい数の果実を結んだのであったが、それが冬を越してこうして芽生えているのだ。その感動、かつてこれほど大きな感動をもって樹の芽生えを見たことがあっただろうか。次代の誕生を喜び、大きく成長して次の世代ヘ繋げて欲しいと強く願わずにはいられなかった。

P941mの北側から西尾根に入り、途中から由良川へ至る尾根を下る。トコ迫出合付近で登山道に合流し、少し下流側に進んで由良川の河原へ下りた。午前10時20分着、由良川の水量はいつもの1.5倍ぐらいに増水している。

ここで渓流足袋に履き替え、由良川を少し溯って今度はトコ迫へ入って行った。この谷は最初から急で、谷中小滝が連続しているようなものであったが、半分は倒木や土砂が埋まって快適な沢とは言えない。その上滝になって現れているもののほとんどが、ホールド・スタンス共に少なく、緊張するものばかりであった。

やがて水の流れも細くなりルンゼ状の滝が連なるようになってきたので、これが途切れたところを右の尾根に逃げて少し登り、今度は岩谷付近に至る尾根を下る。

素晴らしい天気だから岩谷出合辺りには人が来ているかも知れないと考えると、ふと人恋しさを覚えて出合まで足を伸ばすことにした。しかし、誰一人来たような気配はなく、ちょうど正午になっていたので、昼食を摂りながら現れるかも知れない人を待つことにする。願いが叶わねば尚想いは募るもの。時は流れ、されど現れる者はなく、やむなく切ないようなそんな思いを断切って一人由良川沿いの登山道を下った。

渓流足袋を履いたまま歩いていたので、一の壷の横を下ることにしたが、最後に足を滑らせて滝壺に落ちてしまった。腰まで浸かっただけだったが、ズボンのポケットに入れていたデジカメが水に濡れて作動しなくなる。水を拭きしばらく陽に干していたが、一向によくなる様子もないので断念し、予定どおり先に進むことにした。

大谷出合13時50分着、今度は大谷に入って行く。いつ来ても素晴らしい大谷、いつものカツラの大木に挨拶し、今日は二ボケを登る。倒木の多いのが玉に傷、しかし水量が多いと二ボケも楽しい。最後の長いナメ滝を越え、流れの絶えるところで長靴に履き替える。

この谷最後の源頭は、下草のない広く緩やかな山肌が展開し、胸に染み入る景観にいつも感動を覚えるのである。原生林とは言え、この辺りにも炭焼きの跡が残り、かつては人が入って樹を伐ったことがあったのだ。不斧の森であるかのように見える芦生の原生林であるが、今まであちこち歩いてみて本当に手付かずの森はわずかだと知る。

城丹国境尾根に登りつき、定番ルートとなった府立大演習林南縁尾根を下った。16時20分出発地に到着。終日五月晴れの爽やかな一日であった。


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