「芦生の森から」06.01.03.


リョウブ

ソヨゴ

コシアブラ

雪の付着した枝

P637m付近

枕谷

野田畑谷

上谷(野田畑湿原で)

上谷(野田畑湿原で)

雪・生杉〜P637m〜クチクボ峠〜三国峠(長沼)〜P810m〜野田畑谷〜地蔵峠〜生杉

湖西道路を走っているときから雪が降り出し、「途中」付近では路面に雪が積もり始めていた。チェーンを着けて再び出発。針畑の桑原辺りから積雪量が急に増え、路上にも10cmほどの新雪が積もっている。生杉付近では視界が200mほどだろうか、かなり激しく雪が降っていた。生杉集落のはずれで車を止め、車中で着替えをする。出発の準備をしている間に雪は小降りになっていた。

午前8時20分出発。除雪されているところまで林道を少し歩き、ワカンを着けて100mほど先の右手杉林の急斜面に取り付く。雪は多少締まっていて20cmほどしか沈まず、膝までのラッセルを強いられた先週よりかなり楽をさせてもらえそうだ。急斜面を登り終えると自然林のはっきりした稜線となる。木立は若いが雪に覆われて薮はほとんどなく、ルートに思案させられる苦労がないのはあり難い。

P637m辺りはコナラを主にした雑木林で、稜線も緩やかで歩いて楽しいところだ。熊谷を隔てて百里ケ岳へ続く国境稜線が大きく迫り、雪がなければ感じないであろうが、冬の稜線はなかなか魅力的であり、何かしら熱いものが湧き上がってくる。「一度は歩いてみたいものだ」と。

右側の熊谷側が杉や桧の植林に変わり、やがて左側の若走路谷側も植林となって杉林の中を歩くようになってくると国境稜線は近い。正面に自然林が現れるとそこが若狭との国境、午前9時50分着。

これより国境稜線をクチクボ峠へ向かうのであるが、風雪が強くて冬山に登っているのだと実感させられる。気温はそれほど低くはないが、風速10m近い風に吹かれていると露出した頬が痛い。昨年3月初旬に来たとき、辺りが分厚い雪に覆われた中でこの稜線だけ地表を露出させていた。風が強すぎて雪が飛ばされたのであろう、きっと風の通り道になっているのだ。

クチクボ峠からは風が幾分治まるが、雪は相変わらず降り続いて厳しい冬山の様相をしている。天候が悪いので三国峠へは寄らず、北側の長沼から国境尾根をそのまま西へ進んだ。雪が締まっている稜線をそのまま歩いたほうが楽ではあるが、風が強くて休む場所もないので、P767mとの最低鞍部から枕谷へ入ることにした。この辺りは2m近い積雪であろうか、もう昨年の最深時に匹敵するほどの積雪量だ。

三国峠付近は地形が複雑で雪の日などは慣れないと迷いやすいのだが、その複雑さが幸いして魅力的な癒しの空間を作っている。芦生の冬にあっては、この辺りと三国岳周辺が歩いて最も楽しい所ではないかと思う。疎らに巨樹の立つ広々とした雪の山肌、緩やかで円かな白いうねり、雪を載せる木立、足を伝う柔らかな雪の感触、そこには雪の森を歩くことの喜びがいっぱい詰まっている。

広く緩やかな枕谷の中は風も治まり、少し下った最初の二俣から左俣に入って、今度はこの谷を登って行く。谷の流れは両側から雪の壁に塞がれ、溯るほどにやがては両岸繋がって完全に隠されてしまっていた。最後まで谷を詰め、急斜面を喘ぎながら登ればP810mから50mほど北方の国境稜線に上り着く。P810m午前11時15分、風が強く雪も降っており、寒くてとても休む気になれないので、ピークを素通りして国境稜線から一本南側の尾根を野田畑谷目指して下ることにした。

雪の斜面を下るのは楽しいが、30cmほども沈めば一気に下るという訳にはいかない。下り着いた野田畑谷では、河岸の雪の高さが先週よりもずっと雪の深くなっていることを教えてくれる。しかし水量は増えてはおらず、真夏のような浅い流れが地表を舐めるように下っていた。大きな木立の陰で雪を避けて長靴に履き替え、ついでに軽く昼食も摂る。そして寒さに追い立てられるように早々に準備を済ませて流れに入った。これから上谷まで、流れの中を歩くつもりでいる。芦生では冬も長靴が大いに役立つのだ。

先週も同じように長靴で野田畑谷を下ったが、途中数箇所倒木などで塞がれた部分を乗り越す所があったとはいえ、今回も先週同様ほとんど流れの中ばかりを歩くことができた。上谷の流れに出合い、今度は上谷に入ってみようと少し溯ったが、100mほど行ったところで連なる倒木が流れを塞いでいるところに出遭い、越える苦労を考えて断念した。しかし、背丈を越す雪の廊下を歩くなどということはなかなかできない体験であり、しかもその造形美と曲がり角の先に現れるものへの期待が胸をわくわくさせる。

先週はこの廊下で鹿に出会ったが、彼らにとってここから抜け出るのは大変なことに違いない。昨春多数の鹿の死体を谷底で見たが、その多くはこんな雪の廊下から出られなくなった鹿たちであろうか。今年のように雪が多ければ、今春もきっとたくさんの鹿の屍に出遭うことだろう。

引き返して上谷を下り、中山神社の横から地上へ上がる。登山靴に履き替えるのは面倒だと、長靴のままワカンを付けて歩いた。神社まで来るとスノーシューのトレースがあり、おそらく今日下って行った登山者であろう、お陰でラッセルせずとも帰れそうだ。

地蔵峠12時55分着、雪は殆ど止んでしまったが、風は相変わらず強い。風を避けてミカン一個を口に入れ、少し休んだだけですぐにトレースを追った。生杉ブナ原生林入口の休憩所でトレースの主に追い着くと、昨年芦生で二度出会った方であり、お話をしながら軽く食事を摂る。長治谷作業所前で二泊されたとの事で荷は重そうであり、この先は空荷の私が先に歩くことにした。

昨日か一昨日かのトレースがその先にも続いており、殆ど沈むことがないので快適に歩くことができる。今日は時間的にも体力的にも余裕があるので、林道が大きく迂回している尾根を乗り越えることにした。崩れた林道跡から取り付いて、最後30mほど急登すれば後は下り一方だ。

誰も歩いていないのでラッセルは避けられないが、今日のようにあまり沈まなければ林道を迂回するのと時間的には変わらないだろう。いや、単調な林道を歩くことから比べれば変化があってずっと面白い。若走路谷の三国峠登山口付近で林道に下り、再び林道を歩いて14時45分帰着。止めて置いた車の上には5cmほどの雪が積もっていた。


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