「芦生の森から」05.12.04.


三国峠付近の稜線

クロソヨゴ

枕谷源頭

アズキナシ

ケヤキ坂峠

カンスゲ

凍りついたブナシメジ

ヒメコマユミ

ナナカマド

傘峠

ツルウメモドキ

小雪・生杉ブナ原生林〜三国峠直下〜中山神社〜中山尾根〜ケヤキ坂峠〜傘峠〜二ノ谷出合〜地蔵峠〜生杉ゲート

山間部では「雪」の予報に由良川源流を辿る予定を中止し、急遽生杉から入山することにした。ブナ原生林入口午前7時25分出発、ちょうど小雪が舞い始め嬉しい出発となる。

ブナ原生林の遊歩道から三国峠への登山道に入り稜線まで上がってくると、落ち葉の上には雪が積もり始めていた。この冬二度目の雪、しかし降ってくる雪に出逢うのは初めてである。

木々はすっかり葉を落とし、この一週間で山は急に冬の姿へと衣装替えしたようだ。しかし「ナラ枯れ」のミズナラだけはたくさんの葉を付けたまま残り、悲しい姿を晒している(このときも、葉を落とすのは生きていることの証であると実感させられた)。

三国峠山頂は寄らずに北側の窪地を通り、そのまま若丹国境尾根を西へ向かう。以前は踏み跡程度の道であったのが、雪を薄っすらと載せてもその存在がはっきりと判るほどに歩道化してしまったのは、たくさんの人が来るようになったためであろう。この尾根や野田畑谷界隈が書籍で紹介されてから、すっかり俗化して森が傷つけられてしまった。

雪融け以降生杉からほとんど入らなかったのは、これ以上に森を(私自身も加担して)傷つけたくないからであり、また傷ついていく森を見るのが堪えられなかったからだ。

中山神社へ続く枝尾根の分岐午前8時20分着、今度はこの尾根に入って行く。稜線上にはクロソヨゴの樹が多く、まるでクリスマスのセイヨウヒイラギのように赤い実をたくさん結んでいる。

原生林の歩きやすい稜線から、急斜面の杉林を下れば中山神社、午前9時10分着。神社の真裏へ出てしまったので、お詫び方々道中の無事を祈って神社にお参りする。

この辺りまで下ってくると雪は完全に融けて少しのかけらも見当たらない。上谷に架かる丸木橋を渡り、サワ谷歩道から中山尾根に登って行く。峠から中山尾根を西へ進むが、右の上谷側が原生林で左の下谷側が二次林や人工林となっており、違いを確認しながらその間を歩けば迷うことはない。

ケヤキ坂分岐午前10時15分、ここの分岐だけは注意していないと杉尾峠の方へ進んでしまいそうだ。分岐から南へケヤキ坂方面に向かう途中、薄っすらと積もった雪が大小二つ、円く接して融けているところがあった。

おそらく親子の鹿が休んでいたのであろう、小鹿にとっては初めて迎える冬なのだろうか。二頭の鹿の寄り添う姿がまるで出会ったかのように脳裏に描かれ、子を思う親の心情に至って何とか生き延びて欲しいと願うのではあるが、反面食害に苦しむ芦生の森を思うとき、昨冬と同じようにたくさんの鹿が死んでくれたほうがいいのだとも思われ、しばらくは相反する感情の整理に悩んだ。

林道杉尾線に出合い、ケヤキ坂峠10時30分着、この頃から大きな塊の雪が降り始めてきた。今までほとんど休みなく歩いてきた上、空腹も覚えていたので、降雪を避けて杉木立の中に入って休むことにする。

食事を摂りながら降り続ける雪を眺めていると、もうそんな季節になったのだと知ると共に、おそらく根雪になるだろう最初の降り始めに出会えたこと嬉しく思った。「雪の芦生へまた通ってくることができるのだ。」と、新たな喜びが沸いてくる(翌週やって来た時には50cm以上の積雪があり本当に根雪になっていた)。

食事を終え、傘峠方面へ歩き始めるとすぐ5名のパーティーにすれ違った。この季節にこの天候、こんな所で人に会うとは思わなかったが、先方もそのように思われたらしい。しばらく立ち話をして別れ、再び傘峠方面に向かった。

雪はほとんど止んでしまったが、2〜3cmの積雪。ふんわりと雪を纏ったカンスゲ、赤い果実に雪を載せたナナカマド・ヒメコマユミなど、この時期でないと得られない光景に次々と出会い、歩みは自然と遅くなる。

傘峠山頂12時ちょうど、山頂からは北へ二ノ谷出合に向かって尾根を下った。幾分急ではあるがスリップしないように気遣うところはほとんどなく、薮もわずかで歩きやすい。ただ二次林であるため、原生林と比べた森の貧弱さはどうしても否めないが。

眼下に下谷が見え最後の急斜面を下れば二ノ谷出合、対岸の林道に先ほどのパーティーを見出した。先方も気付かれて大カツラへの歩道から下谷へ降りて来られ、そこから長治谷作業所前までご一緒する。

作業所前13時15分、戻るには早過ぎる時間ではあるが、ここまで来ると適当な寄り道先が見当たらない。またそんな気力も萎えてしまったので、まっすぐ帰ることにした。

地蔵峠からは旧道を歩く。荒れたままの山道ではあるが、退屈な林道を歩くよりはずっと楽しい。出発地ブナ原生林前に14時05分帰着。

今年になって42回目の芦生、いつでも帰ることができる素晴らしい山を身近に持つことのあり難さを強く感じた。


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