「芦生の森から」05.11.26.


最初の雑木林

アズキナシ

アズキナシの実

高圧線鉄塔

P906mから比良山系

ブナの林

イチゴ谷山

植林地から天狗岳方面

クリタケ

三ボケ上流

府立大学演習林境界尾根から南望

ナナカマド

晴れ・久多川合町〜P908〜イチゴ谷山〜経ケ岳〜P941〜三ボケ源流〜P936〜岩屋谷出合

久多川の岩屋谷と滝谷出合に積んできた自転車を置き、久多川と針畑川の合流点川合町まで戻る。そして少し針畑川を溯った県境手前の道路脇に車を止め、午前7時ちょうど出発。

今日はここから久多川と針畑川の中尾根を三国岳まで歩くつもりだ。道路からすぐに始まる杉林の急斜面に取り付き、10分ほどジグザグに登り続けると稜線に至る。ここまで登ると傾斜も幾分緩くなって杉林も終わるが、潅木の薮が現れて歩き辛い。

標高550m辺りの平坦地に出ると突然薮が消え、20〜30年生くらいの落葉樹が適度な間隔で生い立つ広々とした尾根になった。紅葉の盛りは過ぎたが、コナラ・ミズナラ・ブナ・コシアブラ・タカノツメ・アカシデ・ホオノキ・コハウチワカエデなどの色付いた葉が残る林の中は明るく、下草の全くない稜線はどこでも歩けそうだ。

P685m午前7時45分着、このピークも広くて居心地のいいところだ。ここで少し休んで軽く朝食を摂り、持ってきた地下足袋に履き替える。いつもは長靴のまま歩くのだが、今日の予定は尾根ばかりであり、また最近は雨も降っていないようなので、久しぶりに地下足袋を履こうと思った。足の裏に伝わる落ち葉の柔らかな感触、カサカサという乾いた音さえ足から伝わってきそう。こんな尾根がずっと続くのであれば、何度訪れずれてもいいと思うのであるが、現実はそう思うようにはいかないものだ。

次のピークを過ぎると林床にアセビ、エゾユズリハ、スギの幼木などが現れ、落ち葉だけで明るかった稜線が濃い緑で暗くなってしまった。その上稜線の針畑側にはところどころ植林も現れ、急に里っぽくなってさっきまでの明るい雑木林が恋しくなってくる。

P865m午前8時35分通過、この辺りにはアズキナシがたくさんあり、赤くて小さい果実を無数に付けたていた。地上に落ちた実を少し食べたが、果汁を絞った後のりんごのような味で好んで食べるようなものではない。しかし、中に少し発酵したものがあり、これはなかなか美味であった。

ピークを下った鞍部に2本の鉄塔が立っており、ここを2本の高圧線が越えている。鉄塔の下は刈り払われて大展望が得られるが、無粋な人工物と引き換えにした眺望を素直には喜べない。鉄塔間には巡視路がつけられていたが、その先の稜線上には笹原が広がっていた。遠目には綺麗な草原のように見えるのであるが、入ってみると結構濃い笹薮で、ケモノ道を外してしまうと漕いで登るのが大変だ。笹薮はP906mまで続いており、夏に来たなら虫に刺されてたまらないであろう。

P906m午前9時25分着。山頂の東側は笹原となっており、視界が開けて比良の山々も間近に望むことができる。山頂から少し下ると大きなブナの樹が数本残されさながら原生林のような景観をしているところがあり、その辺りより笹の刈り分け道が現れて薮漕ぎから開放された。稜線を北へ進むほどに笹も薄くなり、急坂を上れば標高892・1mのイチゴ谷山山頂である。

午前9時50分着、この先は登山道が稜線上に開かれているので、地図のお世話になることもほとんどなくなる。山頂から少し下ったところは、自然林の中を背の低い笹が地表を覆ったなかなか素敵なところであったが、すぐに植林直後の造林地に飛び出しがっかりさせられた。造林地の周囲には鹿よけのネットが張られ、それに沿って登山道が付けられている。

経ケ岳との最低鞍部辺りからは再び自然林となり、山頂への上りで男女二名のパーティに追い着いた。ミゴ谷を登ってこられたとのこと、山頂までご一緒しながらお話を伺えば、このホームページもよく見ていただいているとのことである。山頂午前10時40分着、他にも登山者があり、経ケ岳もポピュラーな山になったのだなと思った。この先の予定コースもお二人とほぼ同じなので、少し昼食を摂って引き続き三国岳方面までお話をしながらご一緒する。

三国岳との最低鞍部付近は、その昔、針畑から久多への街道が越え、峠には茶屋まであったという。針畑側の街道は登山道として蘇っているが、久多側のルートは判然としないらしい。どこを通っていたかを捜す山旅もなかなか面白そうだ。古屋からの登山道でお二人とお別れし、私はP941mへ向かった。

出発して始めのうちこそ心惹かれる景観に出会うところもあったが、それ以降はずっと平凡な尾根を辿って来たため、今日のP941m北面の優しい表情は一層強く胸に沁みる。12時10分、山頂付近の陽だまりで昼食を摂りながら、30分ほど乾いた落ち葉の上に座っていた。日々の雑踏とどろどろした人間関係にささくれ立った心が、緩やかな時の流れに洗われ次第に癒されていく。芦生では山の中をせかせか歩き回るより、こんな無為の時を過ごすほうが相応しいのかもしれない。

ピークからまっすぐ南に、三ボケとロノロノ谷の中尾根を下って行く。左右の谷は浅く、葉を落とした木立越しに広がる原生林の深さが胸を打つ。芦生に居ることを強く感じさせ、ここに在ることを心の底から嬉しく思った。三ボケ上流に降り立ち、流れを渡って対岸の急斜面を再び登る。少し登って見下ろす三ボケ上流は、明るく柔らかでとても美しい。

登りはかなり急であるが、地下足袋はこういうところでも威力を発揮する。地面に食い込む爪先が足元を固定し、長靴よりもはるかに歩きやすい。城丹国境尾根に上がり、南へ辿って次のピーク936mに13時40分着。

少し南、府立大学演習林の境界尾根を下っていると、前方が開けて今朝方通ってきた稜線が長々と続いているのが見えてくる。境界尾根をさらに下って行くと、先ほどのお二人(プラスもう1名の登山者)に追い着いた。管理棟へ下る歩道は遠回りで退屈だ。岩屋谷出合へ直接出る尾根をご一緒に下りましょう。

岩屋谷林道入口から岩屋谷側へ100mほど入ったところに無事下り立ち(ここへ下りる尾根が一番下りやすいと思われる)、岩屋谷出合14時35分到着。止めていた自転車に乗り林道を下る。久多の集落に出ると谷も開け、辿ってきた山々も見えてきた。

稜線を振り仰ぎ今日一日の行程を反芻しながら、久多の小盆地を駆け下った。(その先の久多駐在所でお茶をご馳走になり、山里の暮らしなどを伺いながら1時間ほど休ませていただいた。ありがとうございました。)


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