「芦生の森から」05.08.07.


サワオトギリ

ケンポナシ

トロッコ道

小野子谷

小野子谷

イワタバコ

小野子谷

クサギ

ナツエビネ

ヒバカリ?

ウバユリ

晴れ・須後〜小野子東谷〜小野子西谷〜七瀬谷ヤケ谷〜七瀬〜須後

須後の駐車場を午前6時55分出発、朝霧が山腹に残っている。大気の中に不穏な気配を感じるのは、「雷雨になるかもしれない」という天気予報に、先週天狗岳で遭った雷雨を重ね合わせたためだろうか、とにかく天候の崩れないことを祈る。由良川本流沿いのトロッコ道を歩き、灰野と赤崎谷との中間辺りを河原に下った。渓流足袋に履き替え、流れを渡って対岸の無名沢に入る、午前7時40分。

対岸からでも小滝の連続するのが垣間見られ、ここを通る度に気になっていた谷だ。谷に入ると確かに最初から小滝は連続するのだが、特段面白いところも美しいところもないまま、いつの間にか水が絶え沢登りは終わってしまった。5m程度の滝が20個あまり、全て登ることができたが(ただ1つだけ、巨岩を戴いた滝の乗り越しだけは難しい)、水量が少なくその上木屑や土砂が谷の中を埋めていて視覚的に魅力を欠く。またその中を流れる水はなんとなく泥臭くてこれも頂けない。大雨でそれらが一掃されればともかく、進んで再訪したくなるような沢ではなかった。最後まで谷を詰めれば、P901から小野子谷出合に至る尾根の中間付近に登りつく。午前8時40分着。

下草の無い緩やかな尾根は目に心地よく映り、休んでいきたくなるような処だ。上りついた尾根の小ピークから北西へ、小野子東谷の二俣に下る尾根を辿る。瀬音がすぐに聞こえ始めるのは、小野子東谷の滝場が険しいためだろう。尾根の上部は緩やかであったが、半ば過ぎから傾斜を急に強める。地形図を読んで、「最後はザイルがいるかもしれない」と予想していたが、幸い細引さえ使わずに下ることができた。

出合午前9時ちょうど、前回はこの二俣を右に入ったのであるが、連続して懸かる左俣の滝が忘れられずに再びやって来たのだ。実際に左俣に入ると見上げるほどには険しくはなく、5m前後の滝が数個続き、その上に出合から見える最上部の15m滝が続く。いずれも登ることができたが少しホールドの細かい部分もあり、また15m滝は高度感があって緊張した。その上に5m余りの滝が懸かるが、これは途中で断念して右から巻き細引を使って落口に下って通過する(そのまま巻けばかなり上まで巻き続けなければならないだろう)。その後は10mの滝が2本あるだけで、その他は小さい。10mの滝は本格的なシャワークライミング、適度な水温は爽快そのものだ。流れの絶える辺りで長靴に履き替え、左へ振りながら登れば小野子中尾根、午前9時55分着。

今度はこの尾根を下る。2箇所ほど迷いやすい分岐があるが、どんどん下れば緩やかで広々とした所に出てきた。原生林が残っておれば素晴らしいところであろうが、残念ながら若い二次林であり、いつの日か原生的景観を取り戻すことを願いたい。その後は急に傾斜が強くなり、顕著な尾根もなくなってしまうので、磁石を頼りにそれと思しきところを下ることになる。眼下に白い河原が見え、なおも下り続ければ小野子西谷、小野子東谷出合から50mほど上流であった。

午前10時40分着、少し上流へ溯り小さな淀みの傍らにザックを下ろす。まずは水浴びから、ちょうどいい冷たさだ。遅い朝食を摂りながら渓流足袋に履き替え、十分休んだところで再び出発。歩き始めてしばらくは平凡な流れであり、人工林も現れて魅力に乏しかったが、やがて周囲が大きな樹木を交えた自然林に替わる頃、両岸迫って小滝と淵が現れてきた。

それらは決して立派な姿をしているわけではないが、円やかで清冽な流れや苔に覆われた岩肌、累積する巨岩、深い谷と自然林、それらの全てが相まって日本庭園のような雰囲気を作り出している。心地よい水の冷たさと水勢を脚に感じながら、その中を溯り続けているうちに、いつしか快い気だるさを感じていた。蕩けるような愉悦、何の危険もない沢なればこそ感じるのであろうが、癒されるとは正にこのようなことを言うのであろう。

30年ほど前のこと、この谷を下った時に見た植林直後の殺伐とした風景と、退屈な沢という悪印象から、なかなか再訪する機会を持てなかったのであったが、年月を経て訪れた今、かつての退屈な流れに美しさを感じている自分を発見した。おそらくあの頃は、険しさだけに価値を感じていたのであろう、永く山歩きを続けるうちに平凡な流れにさえ美しさを感じることができるようになったのだ。谷の広がりを感じると二俣、今日はこれを右に採ることにする。

が、少し歩いて愕然とする情景に出会ってしまった。バイクが捨てられているのである。心地よい時を過ごす中ですっかり忘れきっていたが、この谷の最上部を林道が横切っているのだ。誰かが林道からここまで下ってきて、何かの事情で捨てて逃げたのであろう。その上この辺りから上流は林道敷設による岩屑が流れを埋めており、夢心地のような気分はすっかり吹き飛んでしまった(こんな事があっても、二俣から下の美しい流れに揺るぎはない)。

次の二俣を右に入ろうと思っていたが、荒れた人工林らしくて気乗りがせず、ここは自然林の残る左俣に入ることにする。しかしこれが急で、微かな流れではあるが滝を連ねており、殊に最後の滝は難しくて緊張させられた(この谷最大の難所であった)。最後はガレを登って林道に這い上がる、12時40分着。

一応晴れてはいるものの、遠くは霞んでいて視界はよくない。林道を少し南へ辿り、七瀬谷との分水嶺から反対側の七瀬谷支流ヤケ谷へと下って行く。上部は急であるが流れが現れる頃より傾斜が緩やかとなり、その後は5m前後の滝が数個出てくる程度で、細引を使わずとも何とか降りることができた。水量が増えて険しいところもなればやがて七瀬谷本谷、仕事道のような踏み跡を幾度か流れを渡りながら15分ほど下れば七瀬、ここで由良川本流に合流する。13時50分着。

昼食を摂り、由良川を泳ぎながら下るべく、荷物を全て二重のゴミ袋の中に入れて出発。水温は少し低めで、しばらく泳ぎ下れば次第に寒さを感じるようになる。これも理由のひとつではあったが、それよりも水に入っても顔の周りに付き纏って離れないアブには閉口してしまった。払っても、払っても逃げないアブに参ってしまい、とうとう泳ぎを断念して歩道に上がらざるを得ない。カヅラ谷出合で長靴に履き替え、なおも歩道を歩くが、夏の芦生は人気がないのか誰にも出会わなかった。灰野まで下ってくると暑さを覚えてきたので、このまま家に戻ればきっと川の水の冷たさを忘れてしまうだろう。来週までの1週間この冷たさを忘れぬために、もう一度水浴びをすることにした。「あ〜気持ちがいい。」水から上がれば夕方間近か、折から一斉に鳴き始めたヒグラシの声に急かされるように、須後に向かって歩き始めた。駐車場16時35分着。

追記:翌週の8月14日再び小野子西谷に入った。二俣の手前、左岸に高い滝を懸けた枝谷があり、小野子西谷を登ればほとんどの者が気付くに違いないような特別の谷だ。その日はこれを登った。水量は少ないが地層が手前に傾斜していてホールドが少なく登れない。右側から巻き始めたが最後まで滝は登れそうになく、結局全部を巻くことになった。高さは全部で50mほどだろうか、私の知る限り芦生随一の高さだ。この滝を越えると後は何もなく、滝の左側にある岩尾根を下って元に戻ったが、これがまた大変で細引きを幾度も使わなければならなかった。その後この日は二俣を左に入った。5m前後の滝が数個続くが、その後は荒れた植林地の中を登ることになって楽しい谷ではない。結局二俣のどちらを選んでも大差はないということであろう。


里山便りに戻るメールを送る