「芦生の森から」05.07.09.


クラマゴケのじゅうたん

ニカワハリタケ

五波谷唯一の滝

ギボウシ

サンショウウオ

中ノツボ谷最初の滝

美しい地層

ゴムタケ

中ノツボ谷の岩場

ヤマアジサイ

ナツツバキの落花

坂谷の滝

五波峠

赤いヤマアジサイ

曇りのち雨・五波谷〜中山谷山〜櫃倉谷〜中ノツボ谷〜中ノツボ西尾根〜岩谷〜五波峠

由良川沿いの田歌から分かれ、五波谷林道に入り若丹国境の五波峠まで車で入った。ここへ積んできた自転車を置き、少し戻った五波谷に架かる橋まで帰り、車を止めて午前7時40分出発。

五波谷沿いの林道はすっかり荒廃し、流れにえぐられ、橋は悉く流されて全く用をなさない状態だ。おそらく10年近く放置されたままなのであろう路面はすっかり緑に覆われ、轍の跡など完全になくなっている。所々クラマゴケに一面覆われて芝地のようになった所があり、ここまで至れば素直に「綺麗だ」と思ってしまう。

入口から10分余りも奥へ入れば林道跡は消え、その先にも微かな踏み跡が続いていた。里くさい荒れた人工林の中は薄暗く、今日のように曇天であればなお更陰湿な雰囲気が漂う。こんな殺風景な谷だと知っておれば、わざわざ足を踏み入れることもなかったのだが、入ってしまった以上は仕方がない、できるだけ早く通り過ぎよう。

五波峠の真下辺りになるのだろうか流れが急に東に方位を変える頃、つづら折れの歩道が谷を離れて上がっていた。それからしばらくしてようやく小さなナメ滝が現れるようになり、渓流足袋に履き替えて流れに足を浸す。しばらく続いた雨で少し水は冷たいが、今まで平凡な谷を歩いて来ただけに欲求不満を一掃するほど心地が良い。

と、目の前に20mほどの幾つにも流れが分かれた滝が現れた。この谷には後にも先にもこの滝以外に滝らしいものはなかったが、その優雅な姿はなかなか見応えがあった。

二股を右に採るとようやく自然林に替わり、抑圧された思いの解き放たれるかのような安らかさが一気に胸に広がる。だがもう流れは細くなっており、流れの消え入る頃、谷を離れて尾根にルートを採りひと喘ぎすれば稜線に登り着く。これを南へ5分ほど歩けば中山谷山の山頂、午前9時5分着。

風が強く汗も一気に引いてしまいそうだ。山頂は通過するだけでさらに稜線を東に辿り、次のピークを越えた杉の植林の中を坂谷支流へ下って行く。植林の中を下るのは気乗りがせず、すっきりした谷であって欲しいと願うばかりであったが、ほんのわずか下れば原生を取り戻したかのような自然林が広がり杞憂は一掃された。

流れが現れるまではかなりの急斜面であるが、流れに下りついた途端に傾斜は緩くなる。水量が増えるにつれ溝のようなところを流れていたが、やがてナメ滝が連続して優雅な流れと変わる。こんなところがずっと続けば楽しいのだが、願いは何時だってなかなか叶いはしないもの。

間もなく平凡な流れの坂谷の本流に出合い、これを10分ほど下れば櫃倉谷だ。水量はいつもの1.5倍ほどもあり、長靴でも渡渉に困りそう。少し下って中ノツボ谷出合午前10時15分、この頃から小雨が降り始めてきた(天気予報では「夕方から雨」になっていたのに)。

中ノツボ谷も水量が多く、最初の滝も豪快に水を落としている。「ドドドドド・・・・・・」峡谷に響き渡る滝の音と瀑風、やはり水量が多いと迫力があるなあ。この滝の右を巻き上がり、続く釜のある滝を左から巻いて越えるとしばらく穏やかな谷となるが、やがて前方に岩壁に架かる滝を見出す。

その岩壁のさらにその上を見上げると、稜線近く岩壁が聳えているのが見える。谷底から見上げるとその全貌を望むことはできず残念だが、対岸の横山峠に続く尾根から眺めれば、芦生一かと思える程大きな断崖であると知るだろう。この岩壁の下に幾つもの滝を連ね、芦生一の険谷といわれる所以の滝場が始まるのであるが、高巻きルートもしっかりしていてスケールの割にはそれほど難しいことはない。

巨大な倒木を載せた滝を越えたところで気が抜けたのだろう、垂れ下がる木の枝を避けようとして全くなんでもない所で足を滑らせ、淵にドボンとはまってしまった。想定外の場所で突然泳ぎを強いられたわけであり、水対策が十分でなくザックやウエストポーチの中まで濡れてしまい、このあと始末に少なからず時間を割かねばならなかった。最後の滝を越えると見慣れた平流が広がり、ここで昼食にすることにする。

午前11時45分、すっかりずぶ濡れとなってしまって、少し休んだだけで寒くなってきた。ゆっくり食事を摂るのもままならず、カッパの上下を身に付け長靴に履き替え、そそくさと出発することにする。

右岸の植林の中を登っていくとすぐに自然林に替わり、そのまま上り詰めた稜線を西へ少し行けばP788m、12時10分着。

ここから中ノツボ谷出合付近目指して南西に延びる尾根を下って行くことにするが、雨が少しずつ強くなってきた。しかし踏跡(獣道かもしれない)がしっかりしており、ところどころテープも付けられているので雨で視界が悪くとも焦ることはない。

次のピークを過ぎたところ、先ほど見上げた岩壁を覗きに行こうと中ノツボ谷側へ下りていくことにする。あと50mも下れば岩壁と思われるところで傾斜が極度に強くなり、また雨で足元も滑りやすくなってきたので、ザイルなしではとても下れそうもないと判断して引き返すことにした。

稜線上はここが芦生の原生林であるとは思えないほど細い木ばかりであるが、ナツツバキがところどころ生えており、花期を過ぎたのであろう地面いっぱいに花を落としている。櫃倉谷が見えてくる頃には傾斜が強くなり、強引に下れば中ノツボ谷出合のわずか上流、13時05分着。

雨は先ほどよりも強くなってきたようであり、これからさらに山を越えて五波峠まで帰ることを考えると憂鬱にさえなってきた。これ以上雨が強くならないことを望みながら坂谷に入る。下りのときには気付かなかったが、遡ってみると意外とナメが多く美しい流れだ。

飯場跡を過ぎるとわずかで原生林に入るのであるが、倒木が多く細かい枝が谷を埋めていてとても歩き辛い。これも過ぎ流れの消えかかる頃、谷を離れて急斜面を笹につかまりながら稜線に這い上がる。

ここは中山谷山の少し北方、おそらく今朝方五波谷から上りついたところ辺りであろうと思われるが、視界が悪いのではっきりとはしない。

とにかく北へ踏み跡を追って進み若丹国境尾根を目指したのであるが、権蔵坂方面への分岐点を確認できないまま踏み跡とテープの標識を追っているうち、磁石は西へ向かって進んでいることを教えていた。雨で濡れたボロボロの地図を広げるとこの尾根に間違いはないと思われるのであるが、分岐点を確認できなかったことで不安を打ち消すことができない。

丹波側の自然林と若狭側の人工林の狭間を辿っているうちに、いつの間にか両側とも自然林になった尾根を歩いていた。背の低い笹に覆われた緩やかな稜線はとても美しいはずなのに、現在位置を確認できないまま歩いていることの不安を背負っていると、素直にそれが受け入れられない。

やがて「若丹国境」の標識を見出し、手を打ちたいぐらいに嬉しくなった。ルートの間違っていないことを確認し得えたことで、稜線の美しさが素直に心に沁みて来る。しかし五波峠までもうわずか、楽しい稜線歩きもあっという間に終わってしまう。

峠着15時05分、朝方止めておいた自転車にまたがり、雨の五波林道を下った。


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