「芦生の森から」05.02.12〜13


P818と三国岳

ヤドリギの果実

スケン谷への下り

スケン谷の滝

トチの木平

由良川

傘峠山頂

雪洞の入口(塞ぐ前)

雪洞の内部

ご来光

傘峠付近から伊吹山方面

(キャプション無しです)

三ノ谷と四ノ谷との中尾根

下谷と四ノ谷との出合付近

雪紐

長治谷作業所

雪のバームクーヘン

生杉〜P818m〜スケン谷〜傘峠(雪洞泊)〜下谷〜長治谷作業所〜生杉

2月12日 雪のち曇り

生杉午前8時15分出発。昨日多数の人が訪れたのであろう、立派なトレースが林道上につけられ、カンジキを着けなくとも全く沈まない。雪が少し降っているが、林道を覆う木々の枝には雪が載せられ、花のトンネルのような中を歩けば、たとえトレースを伝うだけであっても楽しくなる。

今年に入って6回目の芦生、ほぼ毎週のように来ているが、来る度に積雪量が増えているようだ。三国峠登山口から500mほど進み、旧道へ下る林道に入る。誰も踏んでいないので膝の上まで沈んでしまい、とても歩けたものではない。カンジキのお世話になって歩き出すが、それでも膝の下まで沈む。15kgほどの荷を背負ってラッセルすることを思うと、このままトレースを伝って地蔵峠から入ろうかと心が揺らいでしまった。

そんな誘惑を打ち消して、予定どおりのルートを進むと、やがて流れを渡るところに出てくる。ここはカンジキを外して2m近い雪の壁を滑り降り、流れを渡って雪の壁を這い上がって越えるのであるから一仕事だ。

再びカンジキを着けて歩き始め、少し行って左側の尾根に取り付く。まだ元気があるときだからよかったが、省みると今回で一番苦しい所であった。最初から急傾斜でその上雪が深い。できるだけ雪の少ない植林内を歩くが、木が混んでおまけに雪を載せた枝が垂れ下がっており、これらを避けながら上るのが大変だ。植林帯が終わって二次林になると、今度は幼木の枝が行く手を塞いで邪魔をする。

傾斜がゆるくなって、ようやく辛い上りから解放され、やがて古屋へ伸びる尾根のピークに登りついた。江丹国境上の818mのピークはすぐそこ、一旦下って登り直すと山頂である。午前10時55分着、反対側は芦生であり、森の深さの違いが明瞭だ。少し早いが昼食を摂り出発。

尾根上は風のために雪が締まり、苦しいラッセルから多少開放させられる。深い雪に埋もれたヤドリギを見出し、雪から顔を出した黄色いその実を2粒ほど食べてみた。何の味もないが、種の周囲にある繊維状のものが舌に張り付いてなかなか取れない。最後は指でつまみ取なければならず、これが木に着けば雨が降ってもまず落ちることはないだろうと納得させられた。

国境尾根を少し南下し、スケン谷に下る尾根に入っていく。新雪の雪深い急斜面を下るのはとても心地がよい。スケン谷の滝を横に眺め、やがて谷下部の広々としたトチの木平に下り着いた。谷の流れは深い雪に半ば隠れ、所々スノーブリッジとなって対岸と繋がっている。それを注意深く渡って由良川本流出合に12時10分到着した。

3週間前に来たときよりも水量は2倍ほどに増え、登山靴を履いたままではとても渡れそうにない。持参した長靴に履き替えて流れを渡り、雪の壁を這い上がって再び登山靴に履き替えてカンジキを着ける。わずかの距離だが、これだけの作業をしたため、20分余りも費やしてしまった。

スケン谷の対岸尾根に、再びカンジキの一歩を印しながら上って行く。傾斜はきついが予期したほどには沈まず、エネルギーの涸れてきた身にはありがたい。それでも何度か休みを入れなければ登り続けることはできず、4時ごろまでに目的の傘峠に着けるかと不安になってきた。一旦平坦な尾根に上がり、再び急な登りを越えると850mのピーク、14時20分着。

ここで方向を変えて傘峠を目指す。これから八宙山まではおおむね緩やかな稜線が続くが、冬季に来る者は稀なのか、ヒノキの保存木でハイキングコースに出合っても人の通った形跡すら感じられない。八宙山を越えると幾分尾根が痩せているのであろう、南側に雪庇様のものができていた。

目の前に傘峠への登りが迫り、今日最後の上りだと自らを励ます。傘峠の山頂は平坦で、ピークはその長い稜線の西端にあったらしいが、気付かずに少し行き過ぎ、引き返したところで「傘峠」と書かれた標識板を見出した。15時20分着。

この辺りで雪洞を掘って泊る予定にしていたが、適当な吹き溜まりが見つからず、やむなく多少雪の層が厚めと思える斜面を試掘することにした。結構深く、これならいけそうだ。入口を拡げて今度は本格的に掘り始める。2.5mほど掘ったところでとうとう土に出くわしてしまったが、ここから直角に掘ればなんとか1人用の雪洞ならできそうだ。

奥の天井を高く削り、床を平らにすれば内部の完成である。荷物を中に入れ、広すぎる入口をブロックで塞いで出来上がり。ここまでおよそ2時間、久しぶりに掘ったので時間がかかってしまった。荷を解いてまずは雪を融かしてミルクティーを作り、その後力ラーメンの夕食。

濡れた衣類を乾かしながら焼酎のお湯割を呑んでいると、40年間にも及ぶ山歩きの様々な場面が脳裏を去来し、時を越えてもなお鮮明な記憶の波間を漂っているうちに、何時しかその頃の自分に戻って山を旅しているかのような錯覚に陥ってしまった。火を消して寝袋に潜り込むと、雪洞の中は無音の世界、自分の息だけが聞こえてくる。

◆◇◆

2月13日 曇り一時雪

目覚めると、雪洞の中でも少し明るさを感じる。朝だ。晴れておれば写真を撮りに行くことにしてまずは朝食を摂る。スープとパンを口に入れながら、紅茶をポットに詰めている間に外はすっかり明るくなってしまった。ブロックを崩して慌てて外へ出、昨日みつけておいた撮影ポイントに向かう。

雲が赤く染まり始めると、その気高い美しさに「荘厳」という言葉が自然に浮かんできた。そしてご来光。だがすぐ上に雲がかかり期待したモルゲンロート(朝焼け)は見ることができなかった。それでも展望は素晴らしく、伊吹山〜奥美濃の山々と、その向こうに御岳と思われる山影が。飽きない眺めではあるがもう雪洞に戻ろう。

荷造りを済ませ午前8時20分出発。朝の白い光の中、新雪の上に新たな足跡を印しながら歩みを続けていると、今ここにこうして在ることへの喜びと共に、生かされていることへの感謝の念を抱かずにはいられない。ツボ谷源流の深い原生林を回り込むように尾根をたどり、七瀬中尾根分岐を直角に曲がって三ノ谷と四ノ谷の中尾根に入って行く。

下谷側は二次林や植林となっていて展望がよく利くが、幼木が多くて薮がうるさい。その上倒木か切株の周囲であろう雪の下に空洞が隠されていて、時々そこに腰まで突っ込み這い出るのに大変な苦労をさせられた。四ノ谷と下谷の出合午前10時05分着。

下谷へ降りるには雪の壁が高過ぎるので、少し下流側に移って降り、カンジキを外して登山靴まま流れを渡った。流れが浅いのでこのまま長靴に履き替えて流れの中を下ろうかとも思ったが、いつ滝や淵が現れるか分からず、背負った荷の重さを考えて断念し、カンジキを着けて下谷林道に這い上る。

予定ではここから中山尾根を越えて上谷側に下ることにしていたが、長いラッセルに飽き飽きしていたので、林道を歩いて下ることに決め中山方面に進み始めた。しかしトレースの全くない林道を中山まで、もしかすると長治谷の作業所まで延々とラッセルしなければならないかと考えると、正直憂鬱にさえなってしまう。

ふと中山尾根側の斜面を見上げると、かなり成長した二次林の下、薮のないすっきりした雪の肌が広がっていた。尾根まで上がれば後は下りだけかと考えると迷いはない。すぐに方向転換してその雪の斜面を上ることにした。かなりの急斜面で一息に上るというわけにはいかなかったが、最後まで薮の少ない歩きやすい尾根が続き、午前11時20分中山尾根に上り着く。

ここで少し昼食を摂り、反対側の急斜面を下って行く。下るほどに顕著な尾根が現れ、今度はその尾根に移って更に下り続けると、最後に長治谷作業所の横に出て来た。作業所は半ば雪に埋まっており、雪の深さを改めて実感させられる。作業所の周辺には人影は見えないが、たくさんの踏跡が付けられていて多数の人が来たようだ。

これで長かったラッセルから開放されると思うと、嬉しいようだが僅かに寂しい思いもする。上谷に架かる丸木橋で長靴に履き替え地蔵峠へ。林道のトレースはまだ踏み方が足りないのか、忠実にたどっても時々ズボッと沈む。そこで試しに長靴のままカンジキを着けてみた。何とか歩けるではないか。新しい発見をして嬉しくなる。

ブナ原生林まで来ると、さすがに訪れる人が多かったのか、もう沈むことはない。そこでカンジキを外してひたすらトレースを追い続け、生杉の出発地へ14時10分帰り着く。路面の雪はすっかり消えていた。


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