「芦生の森から」04.08.21


トロッコ道沿いの湧水

カズラ谷作業所

ゲロク谷の滝(巻く)

右俣最初の滝(登る)

左俣の滝(悲壮な思いをした)

右俣の源流付近

トチの実

不思議な樹

赤崎谷出合付近の由良川

2004年8月21日・曇りのち雨・ゲロク谷右俣・左俣

午前6時30分、須後の駐車場を出発する。空は曇って涼しく水は少し冷たそうである。トロッコ道に入り、5分ほど行ったところにある湧き水をいつものようにペットボトルに汲む。今は花の端境期なのだろう、歩きながら探してもほとんど花を見かけない。

出発してからおよそ1時間半、単調な道をせっせと歩くとカヅラ谷出合。ここにある作業所は荒廃していて窓や戸はすでに無く壁の一部も崩れているが、床が半分ほど残っており屋根もしっかりしているので、中でテントでも張れば雨が降っても快適に過ごすことができよう。

カヅラ谷に入って踏み後をたどり、ゲロク谷出合午前8時着。ここで渓流足袋に履き替えてゲロク谷に入っていく。この谷は沢登りの対象となっていて、芦生では一番入る人が多いと思われる。ガイドブックにも取り上げられ、インターネットで検索すれば詳細な記録が載せられている。だから巻き道も結構ハッキリしていて人臭ささえ感じるほどだ。

実はここへは2週間前にもやってきた。しかし撮った写真を保存していたスマートメディアが壊れてしまい、やむなく再度訪問することになったのである。実際そうではあるが、なかなか楽しい谷だったので(芦生では一番楽しいと思う)、再び訪れることを半ば楽しみにさえしていた。谷の溯行ルートはガイドブックなどに譲り、ここでは私の実体験を中心に述べよう。

10mほどの滝を2個高巻くと右俣・左俣の分岐に着く。前回は右俣から入ったので今日は左俣から先に溯行することにしよう。しばらくは滝らしいものがなく平凡であったが、やがて目の前に12m(ガイドブックにはそうある)の滝が現れる。下部がオーバーハングしていて中ほどまで巻き、上部は滝の中を登るのであるが、前回はガイドブックに従わずに強引に下部を登ったため、途中で進退窮まり悲壮な思いをする羽目になってしまった。

オーバーハングを乗り越えたまではよかったが、その上で詰まってしまったのである。あと一つが足らない。あと一つスタンスかホールドがあれば越えられるのに・・・。心許ない小さな足場に片足で立ったまま、10分あまり必死になって探した。そしてやっと小さなスタンスを流れの中に見つけ、そこに足の親指を載せて一気に体を引き上げた。越えた!あまりの嬉しさに「やったー」と思わず言葉が出てしまったほど。だから今回は素直にガイドブックに従う。
その後は、長くて滑るような滝と20mほどの登れない滝があり、これを越えれば静かな源流となる。そして二股を右すればやがてゲロク谷右俣・左俣分水尾根の付根に登り着く。午前9時45分着。少し休憩し、今度はその分水尾根を下る。

上部は緩やかで歩きやすかったが、瀬音が近付くにつれ次第に勾配が強くなってきた。左右の谷底が見えてくるといよいよ急となって、立木や木の根を掴みながら下るが、最後の最後はザイルのお世話にならなければならない。5m程の岩場を、木に細引を掛けて下ると左俣と右俣の合流点、午前10時40分着。

ここでも少し休み、今度は右俣に入ることにする。この谷は出合から滝が続き、その上シャワークライムすれば小さなつるつるの滝1個を除き全て登れるのだから、本当に楽しい谷だ。大きな滝場は3ヵ所あり、その間にも優雅なナメとナメ滝が続き、ヒタヒタと足を流れに浸しながら溯れば心のそこから喜びが湧きあがってくる。

谷の途中で4羽のミソサザイに出会った。3〜5mほどの距離で倒木に止まり、独特の屈伸ダンスをじっくりと披露してくれた。なかなか逃げないので腰を下して見ていると、内の1羽がせっせと餌を与えているのである。おそらく巣立って間もない幼鳥なのであろう。いずこも親は大変だ。
最後の滝場を終えると緩やかな源流となり、流れの中にトチの実を発見した。「今年は少し秋が早いのかなあ。」と思いつつも、秋の間近であることを教えられる。

流れの涸れる辺りで長靴に履き替え、谷を離れてひと登りすれば標高911mの標高点。午前11時55分、ちょうど昼食時だ。食事を摂りながらピークに立つ不思議な樹の塊を眺めていた。枯れたスギの巨木に4種類(ヒノキ・ヤマグルマ・タカノツメ・ネジキ)9本の木が同居しているのである。「死体を踏み台にして生きる」自然の厳しさである反面、「後世の命の礎として樹はその命を終える」のだと見れば、樹の深い愛情を感じないわけにはいかない。

沢登りの後、前回は小野村割岳に寄り、頂上で会った二人の登山者を案内して天狗峠からカヅラ谷出合に下ったが、今日はそんな元気もないのでまっすぐコヨモギ谷作業所目指して刑部谷と赤崎東谷の分水尾根を下ることにした。

刑部谷源頭からしばらくはシャクナゲの繁茂する細い尾根で、その横たわる枝を潜ったり跨いだりと通過に難渋したが、その後は尾根も広くなって薮もほとんどなくなる。最後に傾斜が急に強まり、そこを由良川に向けて一気に下ると、ピッタリとコヨモギ谷作業所の横に下り着いた。13時20分。

今日はここから由良川下りをする予定にしていたので一応川まで下り、とりあえず水浴びをして汗を流したが、水温が低いのであまり長くは浸かっていられない。しかし、せっかくだから泳ぎながら下ることにし、身支度をする。

10分ほど服のまま泳いだり歩いたりして下ったが、震えが出始めとても長続きしそうにないので、赤崎谷出合からトロッコ道に上がった。と、ちょうど雨が降りだし、次第に強くなってくる。「ああ、よかった」あのまま寒さに堪えて川下りを続けていたら、悲愴な思いをするところであった。

雨の降る中ひたすらトロッコ道を歩き、14時40分駐車場に帰り着く。

その頃には雨はほとんど止んでいた。


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