「芦生の森から」04.05.23


タニウツギ

タニウツギの群生地

コナスビ

クマハギの被害木

キイロスッポンタケ

マスタケ

フタリシズカ

ルイヨウショウマ

由良川源流から天狗岳方面

タニギキョウ

サルメンエビネ

コイケラン

トチノキ

トチノキの花

スケン谷

2004年5月23日 曇り
古屋 午前8時出発、保谷林道を行く。林道脇には今を盛りとタニウツギが満開の花をつけていた。川からはカジカガエル声が絶え間なく聞こえ、オオルリやミソサザイの声も時々聞こえてくる。簡易水道の貯水場横からすぐ尾根に取り付くことにしたが、この尾根の下りではいつも間違っていたので、今回は分岐に赤い布をつけながら登った。

途中に真新しいクマハギの被害木があり、皮の剥がされた部分をよく観察すると、爪痕らしいもので埋め尽されている。おそらく爪で表面の柔らかい部分を掻き取って食べたものと思われ、私もやってみることにした。と、簡単に爪で取ることができ、食べてみると意外にも全くヤニ臭さはなくわずかに甘味さえある。ただ繊維の残るのが難であるが、クマなら気にもなるまい。

江丹国境尾根に上がり、尾根伝いに少し南へ行くと、何かの震えるような声が聞こえてくる。カエルの鳴声にも似たその声の方へ近づくと、枯れた立ち木の中から聞こえてくるらしい。見上げるとキツツキの巣穴が開いており、そこから流れ出てくるようである。

根元に座り込んでしばし待っていると、餌(虫)をくわえたアカゲラが巣穴に止まった。が、私に気付いたらしくすぐに飛び去り、近くの木を飛び移りながら「キョッ、キョッ、キョッ、キョッ・・・」と連続して烈しく鳴き続けるのである。その声を聞いていると居たたまれなくなり、「分かった。すぐに立ち去るからもう鳴かないでくれ!」言わずに入られない。

岩谷峠の一つ手前のピークから枝尾根に入り、岩谷へ下っていく。上部は緩やかであったが、最後は傾斜が急になって木につかまりながら下らなければならない。午前9時55分、岩谷へ下り立つと、半ば腐った倒木に50本ほどのキイロスッポンタケが生えていた。これだけの量がまとまって生えていると正に壮観であるが、この仲間のキノコには変な臭いがある。鼻を近づけるとかなりの悪臭で、写真を撮るのもそこそこに早々に立ち去った。

そこから少し下ると由良川本流に出合う。水量は通常の2倍程度、大雨が続いたのでもう少し増水しているかと思ったが意外と少ない。長靴のままなんとか流れを渡り、少し下って最初に右岸(下流に向かって右側)から合流する谷に入っていく。少し入った左手に下草のない緩やかな傾斜地が広がっており、秋には幾度か訪れたところであるが、今日もこれを上ることにする。

徐々に傾斜が強まってきたので、最後は尾根に逃げ、今度はその尾根を登る。緩やかな尾根であったものが急な痩せ尾根になると、芦生では珍しいちょっとした岩場が現れた。

岩の上に這い上がると視界が豁然と開け、由良川の一番急峻な場所である大谷から岩谷にかけての樹海が広がる。まさしく芦生最奥の地帯であり、全てが原生林で覆われた山肌は本当に美しい。樹海は由良川をはさんで高度を上げ、天狗峠から三国岳にかけての稜線を対峙させる。これほど眺めのいいところは滅多にない。それもこんなに奥深い山を眺めることができるところは。

岩場を越えると再び平坦となったが、これからの予定がなく、また空腹も覚えてきたので昼には少し早いが昼食にする。食事を摂りながら地図を眺めていると、すぐ後ろで鳥の声がした。振り向くとわずか1メートル余りの小枝に、ヒガラが止まってこちらを眺めているのである。これほど間近で見たことはなく、逆三角形の蝶ネクタイもまるで写真で見るかのよう鮮明だ。

食後も予定が立たず、とりあえず東側の広くて緩やかな尾根を下ることにし、一旦谷底まで下りた後、再び谷を上って食事を摂った所とほとんど変わらない場所に戻ってきた。しかしここに着ても未だ予定が立たないので思案していると、近くでジュウイチの鳴く声がする。「ジュウイチ、ジュウイチ、ジュウイチ、ジュウイチ・・・」とだんだん甲高くなる声は、なにか切羽詰ったかのようだ。

時間はもう午後1時を少し過ぎている。これから先へは時間的に無理だろうから、スケン谷辺りへ下って帰ろう。八宙山の歩道に合流して、中山のほうへ少し下り、ヒノキの保存木があるところから右に折れ、岩谷出合方向へ向かったが、左手の谷が下るのによさそうである。地図を見るとスケン谷出合の少し上流へ下りるようだ(これが大きな勘違いであったのだが)。

そこで谷をどんどん下って行く。途中幾つかの滝はあるものの、大して労なく簡単に巻き下ることができる。杉の植林が現れおかしいと思っていると、やがて本流沿いの歩道に合流、見慣れた丸木橋にぶつかった。「ここは鳥越谷だ!」ずいぶん上流へ下りてきたものである。

仕方がないので歩道を下り、イタドリ谷出合からは、歩道が高く巻き上がるため本流に降りて渓流足袋で川を歩くことにした。冷たい!膝まで入ると引きつりそうなほどだ。できるだけ流れを避けて岸を歩き、スケン谷出合午後2時15分。途中10人ほどの団体を見かけたが、この辺りまで多くの人がやってくるようになったとは、芦生もずいぶん俗っぽくなったものだ。

スケン谷の中はとても広く、野田畑谷にどこか似たところがある。トチノキの大木が多く存在して、地上には無数の花が落ちている(一つ一つの花は意外と小さい)。広い谷のどん詰まりに滝があって、今日はこの滝の左側の谷を詰めることにした。滝は最初だけで、後には滝らしいものはなく急な谷を詰め上がって尾根に上り、わずかで江丹国境尾根に出合う。

ここでまたアカゲラの巣を見つけ、親の帰りを待っていたが、やはり先ほどと同じように鳴き叫ばれてしまった。「どうもスミマセン。」

818mの標高点から北東へ延びる尾根を下る。この尾根は冬に通って歩き易い尾根だとの印象があったが、雪のない季節も変わらず歩き易くて楽しい。このまま古屋まで尾根通しに歩くことにしよう。何度かのアップダウンがあり、なかなか高度が下がらず時間がかかる。

尾根のいずれか側に所々植林されたところがあるが、間伐されて明るく全く嫌味はない。古屋までの中間を少し過ぎた頃、一帯がひどいクマハギの被害に遭った杉林があった。「これはひどい」と思って歩いていると、前方に真っ黒い塊が!まさにそのクマハギの張本人が、皮をむいたばかりの木に立ち上がって寄りかかっているところであった。その距離30メートルほど。

私が風上側にいたのだろうか、おそらく何かを感じたのであろう、足を下ろして横を向いたときには緊張が全身を走った。が、横を向いたまま谷側へゆっくりと去って行ったのを見届けた時には、一気に緊張感が解けるのを感じたものである。かなり大きく見えていたクマであったが、立っていた木までやってくると、それほど大きくはなかったようである。

その後2箇所ほどエゾユズリハの薮に出会いはしたが、それほど長く続かず苦痛を感じるまでのことはない。やがて大きなブナが幾本も生えているところに出会い、そこから東へ古屋集落目指して一気に下る。落ち葉のたっぷり積もった傾斜地を下るのは楽しい。

家が見えてくるとまもなく道路へ飛び出し、少し歩くと出発地保谷林道の起点である。

午後4時50分着、今日はたくさんの出会いがあり、豊かで満たされた山旅であった。


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