「芦生の森から」03.11.24


小野子西谷の鞍部で

シンコボを望む

権蔵坂辺り

小畑登さんって誰だろう?

権蔵谷の滝

ナメコ

ムキタケ

権蔵谷

権蔵谷

チドリノキ

2003年11月24日・曇り一時雨

午前7時20分、須後の駐車場を出発、薄雲が広がっているがおおむね晴れているようだ。今日は演習林事務所入口にある樹木園から、ケヤキ坂方面に続く尾根を通って原生林に入ることにする。

内杉谷林道起点角から急な登りが始まり、樹木の名板がつけられた林の中をどんどん登っていくと、やがて歩道は水平になってしまう。そこで、そこからは細々とした踏み跡程度の道を進む事になり、「カシノナガキクイムシ」によるナラ枯れ被害調査地を過ぎ、テレビアンテナ跡に着いてやっと急な登りは終わる。

ここまで約20分、その後は平坦となり、いくつかの小さなピークを乗り越えて行く。エゾユズリハとアセビの薮が所々出てくるが、どちらかと言うと歩きやすい方だろう。尾根上は大半二次林であるが、モミやツガの大木もたくさん残されている。踏み跡に沿って錆びた太い針金(番線のようなもの)が延びており、所々碍子の現れるところを見ると、おそらく通信線が通されていた頃の残骸であろう。

途中、100羽ほどのアトリの群れに出会った。突然鋭く風を切る音が聞こえ、たくさんの小鳥の群れが一斉に飛び立ったので「何であろう」と見ていると、しばらく空中を旋回して元の木々に舞い戻って来た。じっと眺めていると木の芽を啄んでいるのであろう、彼らの落とす食べ滓が地表を覆う枯葉をパラパラと打ち、まるで雨だれのよう。立ち去り難いが先がある。ゆっくりと歩き始たつもりだったが、再び空を切る音を残してアトリの群れは一斉に飛び立っていった。

尾根が大きく広がり、雑木林の平坦地から急な斜面を少し下ると、小野子西谷への顕著な鞍部に立つ、午前8時45分。傾斜がないため小さな池状のものができている。ここへ降り立つ前、上から牡鹿の姿を認めたが、こちらの存在に気づきながらも慌てて逃げる事もせず、芦生の鹿も随分人馴れしてきたものだと思った。

これより尾根は急な登りとなるが、地形図を見ると一つ北側に極めて緩やかな尾根とそれに沿った谷があるのに気づく。非常に惹かれるものがあり、急斜面をトラバース(横断)して行ったが、そこには荒れた植林帯が広がっているだけ。わざわざ来る価値は全くなかった。しかし、戻る気力もないのでそのまま植林帯の中を行くことにする。

最初は本当に緩やかな登りで、次第に傾斜を強めそれをどんどん登ると、やがて七瀬谷源流へ入る林道に出た。これを北へたどると10分ほどでケヤキ坂、内杉谷林道に出合う。午前9時30分。気がつけば霧雨が降り始め、とりあえず合羽の上だけを着けることにした。

杉尾峠方面への林道を15分ほど歩き、下谷と内杉谷との分水嶺に付けられた作業道に入る。そのあと上谷支流のモンドリ谷へ下る予定が、調査用の歩道に引きずられて下る場所を通り過ぎてしまい、やむなく急な尾根を下って直接上谷に出た。上谷はすっかり冬支度が済み、あとは雪が降るのを待つだけといった様子。

杉尾峠まで15分ほど、天気も悪く紅葉の季節も終わればハイカーもほとんどいない。10時40分杉尾峠。霧雨はほとんど止んでいるが、遠くは煙ったように霞んでいて天候の良くなる様子はなさそうである。
峠から若丹国境尾根上の櫃倉谷コースを少し歩き、歩道が櫃倉谷側へ下り始めるところで別れて国境尾根をさらに西へ進む。尾根の丹波側はほぼ原生林であるが、若狭側はスギの人工林でその相違が際立つ。だが、スギの背丈は低く、その上最近下刈りや枝打ちなどの手入れがなされた様子で明るく歩きやすい。したがってもっぱら若狭側にルートを求めて歩くことになる。

櫃倉谷コースと別れて最初のピークで1回目の昼食とし、雨が止んだようなのでついでに合羽も脱ぐ。眼下の虫谷川を隔ててシンコボが、そしてその山麓にはまだ紅葉の残った森が望まれる。今年の紅葉はあまり美しくなく、殊に赤色を欠くと致命的だ。

食事を済ませ更に国境尾根を進む。ロクロ谷のピークを過ぎると、若狭側も雑木林に変わり楽しくなる。ただ、権蔵坂への下りは判りにくく、思案させられる所だ。10年ほど前、権蔵坂からロクロ谷まで歩いた事があったが、そのときは尾根上にチシマザサが生い茂り、薮漕ぎに苦しめられたものであった。ところが今日はどうだろう、チシマザサはすっかり枯れ、薮漕ぎなど全くする必要はなくなってしまっている。10年の間に何があったのか?聞くところによれば、積雪量が少なくなってしまい、チシマザサの芽が雪に埋もれないため、冬の寒風に晒されて枯れてしまうのだそうだ。地球温暖化現象はこういうところにも現れているらしい。

権蔵坂12時45分着。ここは若狭と丹波を結ぶ峠、その昔は随分往来があったのであろうが、今は全くの廃道。説明板が付けられてはいるが、当時を偲ぶものは何一つ見当たらない。今日はこの権蔵谷を下ることにする。

谷は権蔵坂辺りを含め明るく緩やかで、途中5mほどの滝が1本ある以外、小さな滝が数個あるあるだけの優しい流れがずっと続いている。この谷を下っていると「芦生に居るのだなあ」とつくづく思う。森の中に居ること、芦生に居ることの喜びを知る時である。

ゆっくりと楽しみながら、寄り道もしながらやがて櫃倉谷へ、13時30分。水量はいつもより多めで、幾度も渡渉するコースは長靴でも時々困るほど。

曇天で薄暗い谷の中では黄色が目立つ。ほとんど葉を落とした木々の中で、最後までいっぱい葉を残しているチドリノキ(葉の形を見る限りカエデの仲間とは思えないが)は、黄色い葉でひとり際立っている。

中ノツボ谷出合から峠を越えて林道まで約1時間半、さらに林道を約1時間で駐車場に戻り着く、15時55分。

帰路、車を走らせ始めると雨が降り出し、間もなく本降りとなってきた。「ああ、よかった。」


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