「芦生の森から」03.10.26


枕谷の支流

シロナメツムタケ

エゾユズリハの実

コハウチワカエデ

三国岳登山口

サルナシの実

野田畑谷

ヌメリスギタケ

ナナカマドの実

若狭側のブナ林

ヤマメ

ムラサキシキブ

2003年10月26日・晴れ

生杉ブナ原生林前に車を止め、午前6時30分出発。林道ゲート横からすぐに三国峠へ向かう尾根に取り付く。初めは急であるが、はっきりした尾根に上がると傾斜が緩くなってくる。ブナ原生林の中を登るのであるから、芦生へのアプローチとしては申し分ないが、エゾユズリハやアセビなどの低木に阻まれ薮漕ぎをせざるを得ない。

江丹国境稜線まで約30分、三国峠へは寄らずにすぐ反対側の枕谷へ降り、少し下った二股を左へ入って、若丹国境稜線に出た。ここから若狭側へ尾根を下ることにするが(国土地理院の地図に破線が入っている)、あまり人通りがないのであろうはっきりした踏み跡はなく、親切なほどたくさんつけられた黄色いテープに救われる。

若狭側は最初二重山稜の谷間のような所であり、その後は緩やかで下草の少ない尾根が続き、いずれも雑木林の中を下る楽しい道であった。が、やがて西側にスギの植林が現われると、急に俗っぽくなってしまう。雑木林とスギ林の間をずっと下って行くと、「大松の広尾根」と表示されたところに出た。

ここは広々として、大きなブナやミズナラが生立ち、まるで原生林に居るようだ。それから先は更に道が不明瞭となり、テープがなければ本当に迷ってしまいそう。「永谷地蔵尊」という小さなお地蔵さんを過ぎると尾根の傾斜がきつくなり、歩道はこれをジグザグに下っていく。このジグザグ道は、重い荷を背負ってでも楽に通行できるよう緩やかに付けられており、その昔は多くの人がクチクボ峠を越えて生杉方面へ通ったことだろう。だが今は、道の真中にさえ木が生えている状態で、きっと粋狂な登山者以外には通る者はいないに違いない。

谷に下り終えるとわずかで永谷林道に出合い、これを少し登ると林道の終点、「三国岳登山口」の標識が立っている。ここにサルナシのつるが垂れており、見れば食べごろの実が。だが日当たりが悪いせいか、水っぽくてあまり美味しくはなかった。

野田畑峠への道は、最初は流れを幾度も渡る谷の中、そして20分ほど登った二股で谷を離れ尾根に這いあがる。この二股に大量の酒瓶やビール瓶が捨てられてあった。おそらくこの辺り一帯を造林(自然林を伐採してスギやヒノキなどの針葉樹を植えることを造林というが、それらの樹が高価に売れた頃の名残であろう、今では違和感すら覚える)した時の飯場跡であろう。

実際これから野田畑峠まで、ずっとスギの植林帯が続いていた。スギ林の中の道は通る者がわずかなのだろう、時々踏み跡が乱れて不明瞭となったり、ケモノ道も交錯したりと幾度もルート判断に苦しむ。ただここにも黄色いテープが絶えることなく付けられていたので、初めての者でもなんとか誤らずに登ることができた。単調で薄暗い植林帯の中をひたすら登り続けると、やがて突然世界が変わり、目の前に広々とした明るい原生林が飛び込んでくる。

野田畑峠に出たのだ!その余りに大きな変化と、心を解き放つ開放感に、暖かいものが滲みあがるのを感じる。「なんと素晴らしいところだろう」と、しみじみ思った。野田畑谷は秋色に染まり、暖色の光が谷全体を包んでいる。コハウチワカエデやウリハダカエデは赤く、半ば葉を落とした高木のサワグルミやトチノキは黄色や赤褐色にそれぞれ紅葉し、サワフタギの青い実がこの谷でもたくさん稔っている。

野田畑谷を少し溯り、南から入る小さな谷を稜線まで登りつめたところで1回目の昼食にした。午前10時15分、振り仰げばナナカマドが赤い実をたくさん付け、コミネカエデの紅葉がとても美しい。多少雲があって日差しは弱く風も少し冷たいが、風の当たらない日の差し込む落ち葉の上は暖かい。稜線を西へ進んで若丹国境尾根に合流し、さらに杉尾峠方面へ進むと、若狭側に広々とした原生林が広がっているのが見えてくる。

ここを通る度心惹かれる光景であったが、今日は十分時間もあるので寄ってみることにした。ブナの樹を主とした下草の全くない林床は、テントを張って泊まっていきたくなるほど明るく気持ちがいい。20分あまり彷徨って元の国境に戻り、反対側のクツベ谷を下って上谷に出る。ここで杉尾峠へのハイキングコースに出合うことになったが、さすがに芦生のメインコースだけあって何組ものハイカーに出会った。

少し野田畑側へ下って、今度は南から入ってくる桝上谷に入ることにする。入ってすぐに浅瀬を泳ぐ2匹の魚を見つけ、追いながらどんどん流れを溯ると、浅すぎて泳げなくなってしまったのだろう、内1匹を手掴みすることができた。ヤマメだそうで(すぐ近くに居たキノコ採りの人に教えてもらった。そしてキノコについて20分余りも話し込んでしまう)20cmほどの大きさであった。

谷を詰め上がり稜線をわずか南へ行くと、中山方面とケヤキ坂方面の分岐に着く。午後1時、ここで2度目の昼食。食事を済ませケヤキ坂方面へ向かうと、すぐに林道が現われてきたので、林道に出る直前を東側の谷へ強引に降りる。谷の中はスギの植林帯となっているためちっとも面白くはないが、それでも林道を歩くよりはましであろう。これを下ると、最後下谷林道へ出る直前に5mほどの滝があり、この下りに少してこずった。

下谷林道もあくまで林道、車は通らなくても面白さに欠け、目的地までのアプローチに過ぎない。ただ、中山までの途中で見つけたサルナシは日当たりが良いのか美味しかったことと、芦生で一番大きいというカツラの大木はさすがに見応えがあったことが、せめてもの収穫か。この林道で、演習林事務所のある須後方面に歩いていく何組かのハイカーにすれ違ったが、林道を往復するのであろうご苦労なことである。

中山を午後2時15分に通過し、地蔵峠への林道に入って、途中から扇谷を詰め江丹国境尾根に上る。谷の中は小さな滝が数個あるだけであり、最後も緩やかに稜線へ上るので「帰りの通路としてこれは使えるなあ」と思った。稜線に出て反対側(生杉側)の急斜面を下っていくと、やがてはっきりした尾根となり、最後まで薮もない快適な下りが続いている。旧地蔵峠道に下り立ち、10分ほど下った生杉ブナ原生林から流れ出る谷に入ってわずか、急斜面を攀じ登ると原生林入口のトイレ脇に出た。

午後3時15分、一番最後は冴えないが、たっぷりと森に浸ることができた秋の一日であった。


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