「芦生の森から」03.05.05.


佐々里峠への峠道で

ザイフリボク

カヅラ谷の滝

緩やかな流れ

マムシグサ

ヤマカガシ

ネマガリダケ

オオカメノキ

アシウスギの大木

ミヤマカタバミ

板切りの跡

快い道

2003年5月5日・快晴

京都市内を抜け、鞍馬から花背峠を越えると新緑の山々が広がっていた。マルバアオダモやウワウミザクラの白い「ふわー」とした花が、緑の中で目を引く。広河原から佐々里峠への道沿いには桜並木があり、満開の頃はなかなか見応えがある。今は八重桜が満開となっておりこれも劣らず美しかった。

佐々里峠7時10分着、すぐに出発とする。ウグイスとツツドリの声が早速聞こえ、すぐにカラ類の声も聞こえてくる。朝は(殊にこの季節は)小鳥の声が賑やかだ。おおむね自然林の尾根道は、歴史を感じさせるよく踏まれた峠道である。

見上げると青空を背景にして、芽吹いて間もない木々の若葉がとても美しい。ミズナラ、ブナ、イタヤカエデ、ハウチワカエデ、ホウノキ、コシアブラなど幾多の広葉樹がそれぞれ異なった色合いの若葉を芽吹かせいる。そしてその下に続く柔らかい落ち葉の道は本当に心地よい。

この尾根上で花を見出すのはなかなか難しいが、タチスボスミレ、シハイスミレ(のようだ)、チゴユリなどが散見された。

やがて道は下り始め、スギの植林帯を通り抜けて灰野で由良川沿いのトロッコ道へ出る、8時35分。久しぶりの由良川の流れ、今日は少し水量が多めのようだ。川からはカジカガエルの声が途絶えることなく流れ、ミソサザイやカワガラス、オオルリの声も時々聞こえてくる。

これからは花を探しながらの散歩気分、だから歩みは自然に遅くなる。歩道にたくさん落ちているツツジの花は、京都周辺よりも葉の大きいサイコクミツバツツジのようだ。流れに近いところだけシャクナゲの花が見られるのは、きっと気温が少し低いからなのだろう。

白い花はほとんどがオオカメノキだが、1本だけザイフリボクを見る。しかし足元に見る花は残念ながらわずか。ゴールデンウイークということで泊り掛けでやってきたのであろう、道中いくつもテントが張ってあった。

やがてカヅラ谷出合、9時30分。ここで渓流足袋に履き替え、ほぼ半年ぶりに流れの中に足を浸す。水は冷たく長く浸かっていると冷たさが頭の先まで上ってくる。だからできるだけ浅いところを、それも素早く渉って地上へ上ることになる。カヅラ谷を溯ってしばらく、滝場のところで第1回目の昼食とする。

滝場も渓流足袋を履いているので難なく通過、小野村割岳への直登谷を過ぎると平坦な谷が開けてくる。それを過ごして二つに分かれた谷の左を採り、どんどん登って水が枯れたところで地下足袋に履き替えた。

ここから稜線までは急で、潅木や笹に掴まりながらの登りとなる。途中で1株オオイワカガミの花を見つけた。やっとの思いで登り詰めた稜線は、今年3月やって来たところ、少し南へ進むと927mの独立標高点である。11時50分。

これからしばらくは、未知のルートなので薮が薄いことを願っていたが、ところどころ草刈もされた歩きやすい道で助かった。稜線上でミヤマカタバミの花を見つけ、写真を撮るべくカメラを覗いたが、どうも異臭がする。

とにかく撮り終えて立ち上がると、ほんの数センチメートルのところに「タヌキのタメグソ」が積まれていて、そこからこの匂いを発しているのだ。「くわばら、くわばら」危うくこの上に座り込むところであった。「花の写真をとるときも、座り込む場所に気を付けねばならない」という教訓である。

それからすぐのところで国境稜線をそれてしまったが、両側とも二次林に変わっていたので間違っていることにすぐ気づいた。せっかくだから付近でネマガリダケのタケノコを捜したが、残念ながら食卓に載せるようなものは見当たらず、あっさりと断念する。

10分ほどの寄り道で元の国境稜線に戻り、まるでハイキングコースかと見紛うほどの快適な道を進むと、やがて小野村割岳山頂に出る。12時55分、ここで2度目の昼食を摂る。

今日はなんと暑い日であろう、半袖のT シャツでも暑い。芦生側から吹く風は多少冷ややかだが、反対側の植林地や二次林から吹く風は生暖かく、森の力を強く感じる。

これからは道標代りのテープが頻繁に現れ、時々不明瞭になりはするものの歩道もしっかりとしてくる。ゲロク谷を過ぎた911mのピークで2組6人の登山者に出会う。こんなところでこんな多くの登山者に出会うとは、このあたりも俗っぽくなってしまったものだ。一組の方としばらく話し込んで、再び出発。

これからは変化の少ない単調な尾根道が続き、自然と足が速くなる。この先に芦生杉の巨木群があると聞いていたが、尾根から少し離れたところにあるのだろう、気がつかないうちに通り過ぎてしまったようだ。

ふと足元を見ると今までのはっきりしない歩道が、たくさんの人に踏み固められた明瞭な登山道に変わっていた。おそらくこのように変わったところあたりにその巨木群があったのであろう。

通り過ぎてしまったので強がりを言うわけではないが、一時はこの巨木を見る観光ツアーまで現れて、京大側が入山禁止までしたぐらいであるから、ここに足を踏み入れるのはあまり望ましいことではないのである。ましてや今日はこれを目的にしてきたわけでもない。

それよりも小野村割岳の手前で見た芦生杉も大きく、私の出会った中ではもっとも大きなものであったから、それで十分満足している。やがて朝方通った灰野への道に出合い、間もなく出発地の佐々里峠に帰りつく。14時50分、初夏のような一日で喉がからからに渇いていた。

今日の山行で、由良川源流の分水稜を杉尾峠から佐々里峠までやっと歩いたことになる。芦生は広大だ。


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