マルバマンサク ダンコウバイ 野田畑の枝谷 枝谷に残る雪の前で 幻想的な倒木 野田畑 カツラの大木の下で イワウチワのつぼみ キンキマメザクラ? |
2003年4月12日 雨のち午後から曇り時々雨 里では桜も盛りを過ぎ、木々の芽吹きが山肌を萌黄色にうっすらと染め始めている。今回の芦生は、雨でも行くという方3名を伴っての山行となった。 JR山科駅に午前8時集合、すぐに出発とする。昨夜の雨も止み、このまま晴れれば有難いと思っていたが、針畑川を溯る辺りから雨が混じり始めてきた。 三国峠登山口午前9時30分出発。車中より山の上にたっぷり雪の残っているのを見ていたから特段驚きはしないが、それでも最初から残雪歩きが待ち構えているとは思いもよらなかった。早春の花を期待しての山行であったが、冬に逆戻りしたような光景に出鼻をくじかれ、早々に目的は断念することになる。雨は降るし花は咲いていないし、参加いただいた方には大変気の毒ではあるが、これが自然とあきらめていただこう。 クチクボ峠への登り道で、マルバマンサクとダンコウバイが黄色い花をいっぱいに付けているのに出会った。決して目立つような花ではないが、他に鮮やかなもののない冬枯れの木立の中では、ひときわ浮き上がって目に飛び込んでくる。 クチクボ峠に着く頃にはすっかり雨模様となり、「終日雨でも仕方がないなあ」といった諦め感が支配し始めていた。峠からは雑木林の稜線となり、急な登りは雨で滑って歩きにくい。 やがて三国峠山頂、10時35分着。残念ながら雨に煙って展望は無い。少し戻って国境尾根を西へ向かう。この稜線はアップダウンが激しく、道らしいものも時々途絶えて急な登降を余儀なくされ、不覚にも尻餅をついてしまった。 野田畑峠の一つ手前のコルから枝谷を下って野田畑谷へ出ると、まるでわれわれを歓迎するかのように雨は止み、明るく広い谷が出迎えてくれた。生い立つ巨木、蛇行する緩やかな流れ、苔むした倒木、落葉に覆われた林床、何をとっても優しく柔らかく、芦生で一番心にかなう風景だ。昨年11月の写真を見て是非行きたいと参加された方もあり、写真では表せない素晴らしさを十分体感していただけたであろうか。 谷の中はまことに心地よく、野田畑峠に着いても稜線へは登らずにそのまま谷の中を歩くことにした。広い谷のそこここには雪が残り、溯るほどにその量も増えてくる。再び雨が降り出してきたので、カツラの大木の下で雨宿りをし、昼食を摂ることにした。 雪解け水と雨で増水した流れをここまで何度も渉りながら溯ってきたのであるが、こういう時には長靴が本当に役立つ。山では長靴を常用していているので、普段は特別感じることもないが、普通の山用靴を履いて難渋しておられる参加者を見ると、その有難さを実感する。 再び雨は止み、登るほどに谷が狭くなり始めたので、間近へ下ってきた国境稜線へ這い上がると、若狭側の視界が大きく開けていた。足元にはオオイワカガミとイワウチワが地面を覆いつくすかのようにびっしりと群生している。 オオイワカガミには蕾を発見できなかったが、イワウチワにはいくつもの膨らんだ蕾がつき、わずかに開花しているものさえあった。楽しみにしていたタムシバは、ほとんど冬芽のまま。しかし見下ろす山肌に山桜のように点々と、時にまとまって白く見えるのは、おそらく満開のタムシバであろう。あと1週間遅ければきっと花盛りに違いない。 またその先を望めば若狭湾に浮かぶ島(半島かも知れな)が見え、明瞭に海との境を見分けることができる。こんなにはっきりと見えるのも雨上がりの置き土産、雨の中を登ってきた甲斐があるというものだ。 稜線から少し離れたシンコボに立ち寄り(午後1時20分)、さらに杉尾峠目指して国境稜線を進むが、相変わらずアップダウンが続く。 杉尾峠は木立に遮られて展望悪く、少し登った伐採跡の植林地で休憩とする。若狭湾まで望める広大な眺望が広がり、その雄大さに見入っているうちすっかり長居をしてしまった。午後3時30分、早く出発せねば暗くなるまでに戻れなくなる。 峠を下った上谷の中は、残雪にすっかり埋め尽くされていた。50cm以上もあるだろうその雪の上を、時に空洞となった雪を踏み抜き、増水した流れを幾度も渉り、雪のない時期の数倍もの労力を費やして、野田畑目指してひたすら足を運ぶ。 残雪に冷やされたためだろう、上谷の中は霧が湧き立ち漂う幻想的な光景である。その真只中を抜け切り、残雪も少なくなってくると、やっと解放的な野田畑に出てきた。 ここまで来れば地蔵峠はもうわずか。と思いきや、その後も続く残雪に予想外に時間を食い、結局地蔵峠に着いたのは午後5時を少し過ぎていた。峠からの林道はすっかり路面が現れ、もう雪に行く手を阻まれる心配はない。 山肌が削られた林道脇を見上げると、そこにたくさんのイワウチワが盛りと花を付けていた。こんなに豪華に咲くのであれば、あのシンコボあたりの花盛りを想像して、その頃にもう一度訪れてみたい誘惑に駆られる。 林道沿いでは、低木の桜がまばらに可愛い花を付けているのにも出会った。「キンキマメザクラ」と思われるが、豪華さとは全く無縁の上品な姿である。そのほかにはミヤマカタバミの白い花も数輪、流れ落ちる小滝の横で見つけることができた。 花の芦生とはとても言いかねるが、それでも最後にいくらかの花に出会えることができ、冬の名残から早春の薫りまで味わえる、「バラエティに富んだ山旅」を体験していただけたことと思う。地蔵峠からの長い林道も、花を見ながら話しながら下ると短く感じられ、ゆとりのうちに三国峠登山口にたどり着いた。 午後6時20分、雨具を片付けている間に辺りは次第に薄暗くなり始めてきた。 |