「芦生の森から」03.01.13.


ウサギの足跡

ミズナラの枯れ枝

三国峠から地蔵峠へ

ウサギの糞

タムシバの花芽

冬芽

生杉へ向かう尾根

雑木林の尾根

三国峠方面をのぞむ

2003年1月13日 晴れ〜薄曇
葛川梅ノ木から生杉方面へ入る道はまたしてもがけ崩れで通行止めとなっており、朽木村役場経由で生杉へ入った。ここまでは路面に凍結防止剤が撒かれていたため、夏タイヤでも大丈夫であったが、これから先は路上に固まった雪が残っており、タイヤチェーンを着けざるを得ない。

正月に降った雪が残っているのであろう、この辺りの積雪は約70〜80cm。林道を奥に進むと、三国峠登山口の少し手間で、車を止めて身支度をしている登山者がいた。その人が先に気づいたのであるが、昨年2月に車を雪の中に突っ込んで出られなくなっておられた登山者がいたが、まさにその人本人であった。「あの時はどうも・・・・・。」

あの日のことや今日の予定等しばらく話をした後、その人は先に出発され、私もここに車を止め身支度をして後を追う。午前8時40分。

今日の予定は、三国峠登山口から三国峠にダイレクトに至る尾根を登るつもりだ。取付きからすぐの急斜面を登り終えたところで、輪かんじきを着ける。この道具は遙か30数年前に買ったまま全くといっていいほど使う機会がなく、引越しとともに日本中を旅してきたものである。

それを今年の正月に比良の武奈ケ岳で長時間使用し、その優秀さを実感したのであった。それ以来すっかり気に入ってしまい、今回が3度目の出番となった。北海道の冬山ではスキーが重宝したが、芦生のような薮の多い低山では輪かんじきが最適なのだろう。

ここしばらく降雪がないのか、尾根の雪は締まっていて15cmほどしか沈まず、「ラッセルする」と言うほどのことはない(ズボ足だと結構沈む)。どんどん登っていくと生杉ブナ原生林から登ってくる登山道に出会うが、誰も通っていないので全くトレースはない。雪面にウサギの真新しい足跡が鮮明に残されていた。この四つの一団となった足跡は、一見してそれと判るほど特徴的で間違う事はない。

枯葉をたくさん付けたミズナラの枝が頻繁に現れるのに気づき、注意してよく見ると、そのすべての枝が折れていた。枯葉となっても枯死した木からはなかなか離れることはできない、つまり生きていなければ葉を秋に落とすことができないのである。「木は自らの意思で葉を落としている」ということを強く実感させられた。

間もなく三国峠山頂、午前9時50分着。積雪は約1m、今日も薄曇りで琵琶湖は望めない。山頂には人の足跡はなく、この連休には誰も登ってこなかったようだ。これからの予定を決めかね、しばし地図を睨んでいたが、予定候補の一つである滋賀・京都県境尾根(江丹国境尾根)を地蔵峠方面に向かうことにし、元来た道を引き返えした。

わずか戻って我がトレースから離れ、境界尾根に新たな足跡を残して行く。峠までは数回の上り下りがあり、無積雪期であればなんということもないのであろうが、これだけ雪があると結構体力を消耗する。尾根の芦生側には原生林が広がり、樹下の白い斜面は目に柔らかく、心安らぐ思いがする。

地蔵峠午前11時着、足跡やスキーの跡が散乱しているが、人影はない。空腹を感じ出したので、少し早いがまず第1回目の昼食を摂ることにした。風はなく、真冬とは思えないほど穏やかで温かい日である。

食事を軽く済ませ、江丹国境尾根を三国岳方面に再び踏み跡を付けて行く。雪の上に第一歩を残していく快感、これが雪山での最大の歓びであろう。またこのような穏やかな日に雪の上を歩くと、さまざまな自然に出会うことができる。

近頃はやりの「雪上ネイチャーウオッチング」とでも言うのだろうか。動物の足跡や糞、冬芽や花芽など、好奇心をもって探せば、白く冷たい世界の中にも生命の息吹を数多く発見することができる。これも雪山の楽しみだ。

峠から1時間ほど歩いた小さなピークで2度目の昼食、ヤマガラが数羽「ビービービー」と鼻にかかったような鳴き声を残して通り過ぎていく。見ればシジュウガラも一緒に行動していた。食事を済ませ、次のピークである標高818mの独立標高点に13時00分着。

これより演習林と別れ、北東の生杉方面に延びる尾根にルートを求める。伐採されて広がる白い斜面、木立の立て込んだ林の中、疎らに雑木の生い立つ気持ちのいい尾根などを越え、やがて北側が切れ落ちた標高750mほどのピークに立つ。ここから眺めれば今日一日のルートをほとんど見渡すことができた。

そしてこれより生杉集落目指し、明るく広々とした雑木林の尾根を一気に下っていく。この下りは今日一番の楽しさ。下り着いた川にはちょうど丸木橋が架かっており、これを渡ることにする。幅40cmばかりの橋の上には70cmほどの雪が載っており、本来慎重に渡るべきところであった。

しかし下りついて気が緩んでいたのだろう。安易に渡りはじめたため、途中で足を滑らせ川へ転落してしまった。高さ2m足らずではあったが、流れの中へ仰向けに倒れこんでしまい、足の先から頭まで全身濡れねずみ。真冬に川に落ちるとは情けなや、ああ情けなや。

幸い車まではあと僅か、川から這い上がり、水の冷たさを全身で感じながら雪原を渡って道路に出、14時30分出発地に戻り着いた。山ではアクシデントはつきものである。


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