「芦生の森から」02.12.15.


尾根に生えるユズリハ

ユズリハ

三国岳頂上

三国岳から百里ヶ岳を望む

若丹国境

ヤドリギ

野田畑谷

エノキタケ

野田畑谷にて

野田畑湿原

中山神社

2002年12月15日 晴れ

仕事疲れに風邪が重なり、目覚め悪く出発が遅くなってしまった。花折トンネルを抜けるとすっかり雪景色。梅の木から久多へ向かって少し入ったところからは路面が凍結、のろのろ運転も限界になり、針畑川をかなり遡ったところでとうとうチェーンを着けざるを得なくなった。

生杉集落を過ぎ、三国峠登山口の少し先で除雪は終わっている。このまま林道を歩くのも能がないかと思い、前回と同様クチクボ峠経由で三国峠に登ることにして出発。午前10時10分、もうこんな時刻となっていた。

膝までの長靴を履き、誰も踏んでいない登山道に入ると、膝のすぐ下まで雪に沈む。積雪は40〜50Bぐらいか。登山道は雪に覆われはっきりせず、何の検証もしないままどんどん奥へ入ってしまったので、「おかしい」と気づいたときは、すでに隣の谷を相当奥まで入っていた。ここまでラッセルして進んできたので引き返すのは面倒だ。目の前の尾根を上り詰めれば三国峠の直下に出られる。であれば、少し急ではあるがこれを登らない手はない。

ここでゴアテックス製のオーバーミトンとズボンを着ける。低山の湿雪にはこのゴアテックスという素材は素晴らしい効力を発揮する。とにかく内からも外からも濡れない(高額であるのが難だが)。急斜面のラッセルには膝を使う、手も使う。そんな時この素材が一番ありがたく感じられる。

細い木の雑木林、その下にユズリハの緑が目立つ、そんな尾根を登るのであるが、もともと膝辺りまで沈んでいるうえ、急斜面を這うように登るのであるから、雪面は常に間近。歩く速度も通常の3分の1ほどか。そうなると、50cm余り隔てた目の前の雪面は、まるで机の上の世界かのごとく身近な存在となる。落ち葉、枯れ枝、鳥の糞、それから雪に埋もれたユズリハの葉など。どれをとってもゆっくりと観察でき、積雪期ならばこその悦びである。

少し傾斜が緩くなり、ユズリハの緑も消えるとやがて生杉原生林から登ってくる登山道に出会う。と同時にトレースがあってラッセルから解放された。ホッとするとともに少し寂しさも感じる。ここまでラッセルしてきたのだから最後まで続けたかったと。ところがそのトレースは、頂上を目前にして途絶えてしまった。そこが頂上であることに気づかず断念して引き返したのであろう。お陰で白無垢の山頂に立つことができた。

午前11時40分。晴れてはいるが眺望は今ひとつ優れず、比良の山並みまでが精一杯。「この積雪ではあまり足を延ばすことはできないだろう。とりあえず野田畑谷まで行ってみるとするか。」

今日も若丹国境尾根を行くのであるが、雪に覆われた尾根は全く違った景観で、初めて来た山であるかのように新鮮だ。

尾根上のミズナラの樹上にいくつものヤドリギを見出す。これも雪のある季節にはおなじみの光景ではあるが、今日は少し様子が違う。季節が早いので果実がたくさん実っているのである。淡黄色の(中には橙色のものもある)実を撮ろうと頃合の木に登り、ついでに一粒口に入れるが、これが何の味もしない。苦くも、辛くも、酸っぱくもなければ勿論甘くもない。鳥が食べてその糞が樹皮に付着し、そこから芽生えるとのことで確かに粘性は強いが。

三国峠から数えて三つ目のピークに登り着き、ここで昼食にすることにした。12時35分。雪を踏み固めてスペースを作る。

今日の昼食はラーメン。コンロで湯を沸かし、餅を焼いて入れ『力ラーメン』の出来上がり。最後は温州みかんのデザート。この季節には最高に贅沢な食事だ。
食事を終え、午後1時10分、ここから野田畑谷に直接下る尾根にルートを採ることにして出発。ブナとミズナラの生い立つ原生林の中、雪を漕ぎながら下るのはとても愉快だ。雪の抵抗で、ゆっくりと足が雪の中へもぐっていく感覚が、なんとも言えない快感。そして下りであるから苦しくもなく、正に「雪と戯れる」との表現が気分的にぴったりくる。

野田畑谷に下り着くと、平坦地のラッセルが待っている。しかしこれは大変な労働であり、流れの中にルートをとることにした。こういうときには長靴を履いていることを、しみじみありがたく思う。登山靴ではこうはいかないからだ。谷の中も雪に覆われ、前回とはまったく別の山を歩いているよう。

川岸の、雪に覆われた倒木の下に、強く惹きつけられる形状のものを見出し、抗しがたく近寄ると、なんとエノキタケが群生しているのである。雪を除けるとさらにその奥にも群生があった。「これを戴かないで帰るとバチが当たってしまう。」ところがキノコはカチカチに凍っていて、やむなく割るようにもぎ取ったため、完全な形状のものはわずかになってしまった。長年住んだ北海道ではこのキノコを『ユキノシタ』と呼ぶが、まったくだと頷いてしまう。

さらに川を下って野田畑湿原を過ぎ、上谷本谷に合流してしばらく下った杉林の中で、接近してきた杉尾峠へ続く歩道にやっと這い上がる。今日は(昨日から)人が通っていないのかトレースはない。

杉林の中は、樹上に積もった雪の塊から水滴が雨のように滴り、傘がほしいほどである。また雪の塊そのものも時々落ちており、これに当たるとかなりの衝撃がありそうだ。

長治谷作業場への林道から上谷に架かる丸木橋を渡り、中山神社の前を過ぎ、雪塊の直撃に慄きながら、雨のように雪解け水の滴り落ちる中を、足早に地蔵峠目指す。

枕谷の三国峠分岐点でトレースに出会い、前方に人を見つけた。今日始めて出会う人だ。地蔵峠で追いつき一緒に林道を下るが、途中から先を歩く。下るほどに足跡が増え、生杉原生林辺りからは無積雪期と変わらないほどの速さで歩けた。

車に戻りついたのは午後3時45分。路面の雪は融け、もうチェーンは要らないようだ。


里山便りに戻るメールを送る