エノキタケ 小野子東谷の最初の大滝 チシオタケ マイタケ 焦げた老スギ ツキノワグマに遭遇 キホコリタケ リンドウ ダイモンジソウ カツラの葉 クロバナノヒキオコシ |
2002年10月6日 晴れのち曇り 寝過ごして家を出たので、芦生入口の須後を出発したのは午前8時20分、予定より1時間ほど遅くなってしまった。 最初から渓流足袋を履き、演習林事務所を通り抜けた所で、最近付けられた小野子谷林道に入る。この林道は、供用される前に地滑りの恐れがある亀裂が見つかったとかで、ずっとゲートが閉まったままである。 ゲートを潜り抜けると林道は草ぼうぼう。100mほど進んだところで途切れてしまい、後は水路の横をたどって小野子谷に出る。早速流れの中に足を浸すがもう10月、水は冷たい。二次林の中を流れる平坦な谷をしばらく行くと、谷は二つに分かれる。 左が幾分水量の多い小野子西谷、右が今日の予定である小野子東谷。西谷は以前通ったことがあったが、人工林が多い平凡な流れである。東谷は初めて通るのであるが、等高線が混んでいて滝が連続しているようだ。 東谷の中は二次林ながら伐採から相当時間を経ているらしく、原始的な様相を取り戻しつつあり、歩いていて心地よい。ここでエノキタケを見付けるが、わずかなので採るには至らない。奥に進むほどに傾斜が増し、小さなナメやナメ滝が出てくる。と、前方に岩壁が現れ20mほどの大滝が出現する。 これを左から大きく巻いて越えると、それから先に5m前後の滝が数個続く(途中隣の谷に50m以上もあるだろう、上が見えないほど大きなナメ滝が懸かっていて、これは見事だった)。そして最後15mほどの滝を緊張しながら越えると辺りは一変し、平坦で穏やかな源流風景が広がる。 その中を上り詰めると901mの独立標高点、6月の里山便りにある大ヨモギ谷を上り詰めたところと同一地点に出た。午前10時35分。 これより由良川のカヅラ谷出合付近を目指して南に尾根を下ることにする。両側は原生林で、緩やかな傾斜の尾根上には、シカのケモノ道があり、また藪も少なく歩きやすい。 途中、背の低いわずかの笹だけが下草に生える平坦地を通った。障害物がないのでどこでも歩ける。地図には載っていない小さな沼状のものもあり、およそ今まで歩いた芦生にはない光景の場所である。「素晴らしい所だ。」こういう光景に遭遇できるのも、道の無い山を歩く楽しみの一つである。 この平坦地の小高い頂に黒く焼け焦げた老スギがあり、おそらく落雷によるものであろう、雷の恐ろしさを目の当たりにする。 ここからしばらく行くと突然急斜面の下りとなる。ウラジロガシの落ち葉は滑りやすく、木に掴まりながら下るが、スリップすると転落しそうなので気が抜けない。最後は小谷へ入り、予定より少し西に寄った由良川に何とかたどり着く。川岸にはダイモンジソウ、リンドウ、アキギリが咲き華やかだ。 由良川を少し下るとカヅラ谷出合、12時20分。これよりカヅラ谷に入るが、渓流足袋を履いたままなので、流れの中を歩く。少し入った所で、今日初めてのハイカーに出会った。 「この先は何処へ行くのでしょう?」との問いかけを受け、説明しているうちに20分あまりの長話になってしまった。先を急ぐ必要があるので弾む話しも途中で止め、更に奥へ入って行く。 ちょっとした滝場を越えたところで、右から流れ込む支流があり、今日はその谷に入ることにする。入ってすぐからナメ滝が連続し、それは水の涸れる直前まで続いた(最後は傾斜も強くなる)。 滝ばかりを登り、なかには緊張する滝もあって、すっかりくたびれてしまう。途中で6頭のシカが群れているのに出会った。これだけの群れに出会うのはかってなかったことだ。 谷の水が涸れ、尾根に上がって上り詰めると、そこは城丹国境の小野村割岳(931.7m)山頂であった。山頂から西へ向かう国境尾根には、はっきりした道状のものがあり、テープもたくさんつけられていて、時々人が通っていることが分かる。 尾根のカヅラ谷側はミズナラを交えた原生林。心に沁みる光景ではあるのだが、今日はいささか不安を感じ「ヤッホー」と声を出してみる。 というのも、先週のことである。ここより1Kmほど東の尾根を歩いていたときのこと、風もないのに前方頭上の樹の枝が揺れ、ガサガサ音をたてていた。見上げると樹上で黒い塊が蠢いているのである。 ツキノワグマだ!その距離30mほど。ミズナラの樹の上でで枝を折りドングリを食べているのである。「コリコリ、コリコリ」とドングリを噛み砕く音が鮮明に聞こえてくる。夢中で食べているのであろう、私には気付かないようだ。 私はそっと引き返したが、あれほど聞こえていた音が突然途絶えてしまったのは、少し人の気配を感じたか?とにかく急いでその場を離れた。その出会いの15分ほど前、そこから300mほど離れた所で「オーーーー」と、数秒間ほども長く続く獣の叫びを聞いていた。 今まで聞いたこともない不気味な声であったが、方向も同じであったところから思うと、これがこのツキノワグマの声であったのだろうか?(ご存知の方は教えて下さい)というわけで、ミズナラの生えた原生林は気味が悪いのである。 芦生側の原生林も赤崎東谷との分水尾根まで、それより細い木の二次林となる。時間的に佐々里峠からの道まで行けそうにないので、分水尾根を少し過ぎたコル(鞍部)から赤崎東谷を下ることにした。 最初は極めて平坦な谷であったが、突然切れ落ち滝が連続する。しかしいずれの滝もホールド、スタンス共に豊富で、十分気を付けさえすればザイルなしで簡単に下ることができる。やがて滝場も終わって緩やかな谷となり、それをどんどん下って行く。 風が出てきたのか、トチノキ、オオバアサガラ、カツラなどの葉が舞い降り、秋の次第に深まるのを感じる。周囲に甘ったるい美味しそうな香りが漂っていると、決まってそこにはカツラの枯れ葉が落ちている。拾って匂うと、これが香りの正体であると納得することができるだろう。 持ち帰って子供に匂わせると、「舐めてみたくなる」とのこと、全く同感。タカノツメも同様の匂いがするが、カツラのほうが美味しそう。 どんどん下って由良川沿いの軌道跡に午後4時着。ここからならば須後まではそれほどの距離ではない。アキチョウジ、クロバナノヒキオコシ、ハナタデ、ミゾソバなどの花を見ながら出発地に午後4時45分戻り着いた。向こうで手を振る人が。 見れば先ほどカヅラ谷で出会った人である。懐かしく感じて再び話し込んでしまった。 |