オタカラコウ ツキヨタケ スギゴケの生える源流 シカと遭遇 トチノキの実 大谷の滝 ブナハリタケ ハナガサイグチ アケボノソウ ゲンノウショウコ ツルギキョウ |
2002年9月8日 曇り時々雨 「午前中は曇り、午後から晴れ」の天気予報を信じ「カッパは不要だろう」と判断して出かけたが、久多に着く頃から霧雨となり三国岳登山口に到着したときには本格的な雨となっていた。少し待てば止むだろうと一眠り。 人の話し声で目覚めると雨はほとんど止んでいる。山仕事へ出掛ける人と登山者。少し立ち話をして、「午後からは晴れるだろう」との希望的観測の元出発することにする。8時45分、最初から渓流足袋を履く。 先月と同じく滝谷の林道を奥へ進み林道終点から谷の中を歩く。巨大なツワブキかと見紛うほどの「オタカラコウ」がたくさん咲いている。滝谷の滝を越えた3谷分岐で今日は真ん中の谷に入る。小雨が続いているが、ウエットスーツを身に着けているので濡れても寒くはない。 水量は普通、しばらく平凡で退屈な流れが続くが半ばから滝が連続してくる。一部ホールドの心細い滝もあるがすべて巻かずに登れるので結構楽しい。流れが消え尾根に移るとわずかで稜線、これも有難い。これで滝谷の3支流全部を登ったが、今日の谷が一番面白い(他は長靴でも登れるがこの谷は無理だ)。 稜線を天狗峠目指して進んでいると小動物が転がるように逃げ去っていった。しばらくと進むと再びこの小動物に、今度は止まっている。ウサギの子供だ。小さい体に大きく開いたまあるい目が本当に愛らしい。昼間に出会えるのはめったにはなく、幸運であるとさえ言える。 天狗峠11時20分、途中でキノコ探しをしていたので遅くなった。軽く昼食を摂り、頂上付近から北西に伸びる尾根を由良川目指して下ることにする。この尾根を通るのは始めてであり、また少しガスがかかっているので下り口を捜すのに気を使う。 下り始めて間もなくブナの倒木にびっしりと生える大きなキノコを発見。少し赤みのかかった褐色の皮と白く肉厚のヒダ、香りも悪くない。これだけ条件が揃えば食べてみたくなるはず、これが日本で一番中毒の多いツキヨタケである。中毒にあったという2人にであったが、多めに食べると入院まで必要らしい。名の由来は暗所でほのかに光るから、私も2度持ち帰って確認した。山でであったらさぞや気持ち悪そうだ。 はっきりした尾根道を下り続け、川の音が聞こえる頃から傾斜が強くなって潅木につかまりながら下る。川の音は次第に大きく聞こえるが流れは見えず、最後に断崖の上に出やしないかと不安は消えない。やっと川の明るさが見えほっとするが、さらに傾斜が強くなって最後細引きを出す。 しかし、しっかりと川を見て呆然としてしまった。「水の色が違う!」あの清流の由良川が、先月も泳いだあの由良川が濁流となり「ゴーーー」という音を立てて流れているのである。この状況を理解し、次にどうすべきかということにたどり着くまで時間は要らない。「元へ戻ることしかない」のだ。しかし同じ尾根をたどるのはいくらなんでも空しい。そこで尾根の東の谷を登ることにし、いったん川岸まで下りた。12時00分ちょうど。 由良川は大木が流れて来てもおかしくないほどの水量で、とても対岸に渡ることなど出来ない(対岸には細々とした歩道がついているが)。 左岸の岩を伝いながら、時に小さく高巻いて上流へたどる。目的の谷を過ぎ、今日の予定である「大谷まで行けたらいいのだが」とさらに進んだが、通過不可能な断崖に遮られあっさり引き返す。 目的の谷は、谷全体がナメ滝のようなもので、そこを倒木や岩などが埋めており、歩いてあまり面白くはない。この谷の水量も全く普通で、「由良川流域のどこでこれだけの雨が降ったのだろう?」と考え込んでしまう。短時間に超局地的に豪雨があり、土砂崩れも発生したものと推定される。だから山は恐ろしい。川原でテントを張る場合はよほど注意しないとひどい目にあう。 この谷の途中、岩を乗り越えようと身を乗り出したとき、20mほど先でシカが餌を探しているのに出会った。こちらの存在に気付かないのでカメラを出し写真を撮りながら隠れていると、どんどんこちらへ近付いてくる。とうとう5mほどにまで接近し、あまりに脅かすとこちらの身も危険かと、軽く身を動かすと初めてこちらの存在に気付いた。そしてあわてて逃げ去ったが、よほど驚いたのかその後5分間ほど「キィー」と甲高い警戒音を発し続けていた。 これで今日出会うシカは5匹目となる。野生動物に出会うことは感動ではあるが、毎回頻繁に出会うシカについてはそう単純ではない。皮を剥される樹、食い尽くされる草、踏みつけられ草木の絶えた地面など芦生で常に出合う光景だ。やがて幼稚樹は消滅し、森林の更新が不能になってしまうかもしれない。天敵の絶滅したシカは飢えや病気でもなければ減らない、猟師も売れない肉では消極的だ。撃ち殺すだけだとその肉を食べる猛禽類などの鉛毒が問題となる。地球の温暖化とシカの過度な繁殖は、この原生林の存続を確実に危うくさせているようだ。 谷の中にトチノキの実がたくさん落ちていた。栗に似ているが非常に苦い。以前知らずにかじったことがあったが、あまりの苦さに味覚の麻痺するほどの体験をした。まさに苦い思い出である。 谷の傾斜が強いのでどんどん高度が上がる。やがてツキヨタケの生えていた辺りの稜線に出、間もなく今日2度目の天狗峠頂上、13時05分。ここで2度目の昼食を摂り、城丹国境尾根を三国岳方面に向かう。 尾根上では色々なキノコ、マスタケ、ドクツルタケ(日本最強の毒キノコ。1本でも死亡するらしい)のほか、ツキヨタケの大群生にもまた出会う。 三国岳との中間付近から、京都府立大学演習林の西境尾根につけられた刈分け道を下る。尾根上は歩きやすい道であったが、3分の2ほど下った辺りから山腹を下る急傾斜の道となった。 このあたりは観察林になっているのか樹木に名札が付けられてあり、それを一つ一つ確認しながら下る。この地域に繁く通うようになり、樹の名も随分分かるようになったものだとしみじみ思う。 下りついたところは岩屋谷林道の終点先月三国岳から下りついたところであった。出発以来ここで今日初めて人に出会う。三国岳に登った登山者で、山の話をしながら出発地の林道ゲート前まで戻った。 翌週の9月15日再び天狗峠付近へ出掛けた。今回は三国岳との中間936m地点から北西尾根を大谷に下り、先週登れなかった大谷の三ボケを登った。この谷にはロロノ谷出合までの間に6個の顕著な滝がある。 最初の滝はシャワークライム、次に出てくる2つの滝は滝の横を直登、廊下の中にかかる4つ目の斜滝は流れの中を登る。5つ目の2段20mの滝、下段は右側を登ることができるが上段はホールド不足で左の潅木帯へ逃げ巻き上がる。 今回この上段の滝を少し登り始め、登るに登れず戻るに戻れずの正に進退窮まった状態になってしまった。久しぶりに感じたこの恐怖感と孤独感、そして深い後悔。何とか戻ることができ本当に命拾いをしたとの思いを味わった(一人の沢登りはこれがあるから危険だ)。 その後15mのまっすぐな滝は右側から巻き上がり、その上に続くナメ滝の上に出る。これで滝は終わってしまうが、原生林に深く刻まれた谷はただそれだけで素晴らしく美しい。 この日はそのあと原生林内を徘徊し、ブナハリタケの大群生に出会った。せっかくだから少し頂いて帰ったが、少し成長していたためか顎がだるくなるほどかみ締めなければならなかった。 帰りは三国岳から岩屋谷林道に下り、林道沿いでツルニンジン、アケボノソウ、アキチョウジ、ツリフネソウ、ゲンノショウコなどの花を見る。 最後の水浴びは一層冷たく、また一つ夏の遠退いてしまった事を知らされた。 |