滝谷下の滝 ナツエビネ ヤマジノホトトギス 三ボケ トリカブト ロロノ谷 前世は河童? マムシに遭遇 イワタバコ フシグロセンノウ ボタンズル |
2002年8月17日 曇り時々晴れ 京都市左京区の北端、久多から今日は入山する。久多は随分奥深い集落で、今でこそ安曇川沿いの梅の木から細々とした道路が通じているが、昔はどこから入るにせよ峠を越えなければならなかったらしい。今でも行くのが大変だが、昔は相当苦労されたことだろう。 さて、久多から久多川を遡り、岩屋谷と滝谷との分岐点に車を止める。ここが三国岳の登山口である(今日の予定では最後に三国岳からここへ下りてくることにしている)。午前6時55分出発。 滝谷沿いの林道をしばらく歩くと林道は終わり歩道になる。流れを何度も渡る細々とした道で岩が滑りやすく、早速地下足袋から渓流足袋に履き替える。履き替えると何故か流れが気持ちよく見え、流れの中を歩かないわけにはいかなくなる。 最初は緩やかな流れであったが、突然岩壁が迫りこの谷名の由来である滝に出会う。10mほどの滝が2つあり、下の滝は登れそうにないので歩道に戻って越え、続く上の滝は流れのすぐ横をシャワークライム。滝を越えると谷が3分する。 昨年右の谷を登ったが、今日は左の谷に入る。杉の植林帯の中、しばらくは小さな滝が出て遊べるが、その後は緩やかになり面白くない。やがて谷がいくつにも別れるので、その中の一つを選び、急になった細い流れを最後まで登り詰める。そしてそのあとは尾根に移り、笹や潅木にしがみついて這い上がる。 動悸が「ドクドク」聞こえてくるほどハードな登りと格闘することおよそ10分、やっと稜線へ。午前8時30分。反対側は芦生の原生林、見事摂丹国境尾根に出たのだ。これからはこの摂丹国境尾根を、原生林と植林帯(一部二次林)との境界をひたすら北上すればよい。地下足袋に履き替え、天狗峠への分岐9時15分。 ここまでは踏み跡がしっかりついていて、迷うこともない。どこかのハイキングコースのようなところさえ出てくる。しかしこれから先はそんなわけにはいかない。藪が多く笹薮に行く手を阻まれることもある。道標代わりのテープも途絶えがちでルートも時々見失う。 この稜線でナツエビネの花に出会った。花のないときばかり見ていたのでずっとエビネだと思っていたが、花の咲いているのに始めて出会い、ナツエビネであったことを知った。なんと清楚で気品のあることか。薮漕ぎも936mの標高点付近まで、京都府立大学の演習林内に入り歩道が多少整備されているので解放される。 さらに稜線を進み、次のピークで尾根を離れ大谷の三ボケへ下る。下り始めてすぐヤマジノホトトギスの花に出会った。午前10時45分、下りついた三ボケの上流は明るく開けた谷で、トチノキ、ミズナラ、サワグルミなどの巨木が生い立つ。流れはまことに穏やかで芦生らしい。トリカブト(種名までは分からない)がはや咲き始めている。 再び渓流足袋に履き替え、三ボケを少し下ると間もなく、今までと打って変わったように滝が連続し、ロロノ谷に出会う。ここも滝場で、さらに下ると15mほどの滝に行く手を閉ざされる。「40mのザイルがなければ下りられないなあ」と納得して戻り、今度はロロノ谷に入る。 しばらくは小滝が続くが後は平坦となり、やがて水が細って急斜面を上りだす。大した労なく稜線へ。この稜線上にはケモノ道がしっかりついていて、藪もなく快適に歩ける。この付近は芦生でも最も深くて人気のないところだ。 稜線を南へ進み、892mの標高点で折り返して由良川のツボ谷出合付近へ下る尾根に入る。この尾根は一度下から登ったことがあり、迷わなければ登山道へ出られる。適度な傾斜のまろやかな尾根で、歩いていて快適である。ブナとミズナラが生い立ちその下をユズリハが埋めている。 由良川の音が聞こえてくると傾斜が急になる。シャクナゲなどにつかまりながら下りると、最後に断崖の上に出てしまった。川まで標高差で50m以上はあるだろう。尾根を間違ったのだ。20mの細引は持っているが、これでは心もとない。地図を見るとすぐ上の分岐を間違えたらしい。 ここは戻るが一番。下りすぎたところを戻るのは辛いものだが、わずかで戻ることができた。あとはその尾根を下って無事登山道へ飛び出し、少し上流へ歩いて由良川に下りる、12時25分。 昼食を摂り川泳ぎの身支度。早速淵へ体を浸す。1週間ぶりの水「やっぱり川は気持ちがいい」。岩谷までの間で10箇所ほどの泳ぎが楽しめた。途中、足元1m足らずで動くものを発見すると、マムシである。 この付近では2年前にも出会っている。これは写真に撮らねばと構えて近づくと、こちらを振りむき頭をもたげ、尾の先を震わせ威嚇する。この姿に身を引いてしまうが、むこうもこちらが恐いのかすぐに逃げる。これを繰り返しながら辛うじて撮影。 岩谷出合いで今日始めて人に出会う。外人さん1人。「こんにちは」と言うと。むこうも「コンニチハ」それだけですぐに立ち去ってしまわれた。 13時05分、ここから岩谷に入る。この谷は何度も上り下りしているところ。入ってすぐの岩に、イワタバコの花を見つける。少し遅いがたくさんの花をつけていて、これだけの花をつけた個体は珍しいに違いない。 この谷の中ほどにカツラの巨木があり、あまりに立派なのでこの樹の根元に散骨してもらおうと思っている。(編注:誰がここまで持ってくるんですか?)今日もその姿に出会えて抱きついた。おそらく周囲10mはあるであろう。 その先で谷は2分し急に傾斜が増す。左の谷は何度か通っているので、今回は右の谷に入る。倒木が谷を埋め陰気で気持ちが悪い。わずかな流れを追って登っていくと最後30 mほどの何段にもなった滝に出る。 「簡単そうだ」と登り始めると、ひどくぬるぬるとしていて、足元はともかくホールド(手掛り)が頼りない。これを慎重に越えると、後は稜線まで続く急斜面の登りが待っている。朝方ほどの元気はなく一気には登れない。 もうすぐ稜線というところで、ナツエビネの清楚な花が出迎えてくれた。「ホッ」とする一瞬。登りついた稜線は先程ロロノ谷を上り詰めた稜線の続き、14時15分。ブナの林で2度目の昼食を摂り、地下足袋に履き替えて再び出発。 すぐに古屋からの登山道に出、その道をたどって三国岳頂上着14時45分。比良の山並みは霞んでいる。山頂からの下りはきつくて長い。ミンミンゼミの声やエゾゼミだろうか「ギーーー」という鳴き声を聞きながら、雑木林の中をひたすら下る。 「いつまで続くのだろう」と思う頃、やっと谷へ下りつく。谷沿いには岩屋が3個あり、谷名の由来になっている。間もなく林道に出、それを下っていると、林床の薄暗いところに鮮やかな朱色の花を発見。フシグロセンノウである。これで3回目ぐらいだろうかなかなかお目にかかれない花だ。 林道沿いではボタンズル、ヒヨドリバナ、オトコエシなどの草本の花や、クサギ、ネムノキなどの木本の花が見られ、あっけないほど早く出発地に戻りついた。15時50分。最後は川で水浴びをして汗を流す。 今日もバラエティに富んだ楽しい山歩きであった。 |