「芦生の森から」02.4.20.


森林軌道跡

ニリンソウ

イカリソウ

ヤマエンゴサク

イワウチワ

エンレイソウ

シャクナゲ

オオカメノキ

ヒカゲツツジ

トチの新芽の果皮

トチの発芽

スミレサイシン

ヤマルリソウ

コゴミ

2002年4月20日 曇り

由良川最奥の集落、須後。ここが京大芦生演習林の入り口であり、ここに演習林事務所がある。由良川沿いの車道はここで終わり、これより森林軌道跡をたどることになる。軌道跡といっても途中灰野辺りまでは時々走っているらしく、現役の部分も残っている。

出発は午前6時。演習林事務所を通り抜け、由良川本流に架かる橋を左岸(下流に向かって左側の岸)に渡ると、足元に山の花が現れてくる。ニリンソウ、イカリソウ、ヤマエンゴサク、イワウチワ(これはほとんど終わっているが)、エンレイソウなど。芦生にやって来ていたのはいつも夏頃から、この季節に来るのは初めて。最初からたくさんの花に出迎えられ心が躍りだす。「どんな花に出会えるだろうか?」

事務所から10分ほど歩いた軌道沿いで湧き水をペットボトルに詰め、最奥の民家井栗邸前を過ぎしばらく行くと、斜面をこちらに下ってくる動物が。私に気付いて立ち止まりこちらを窺っている。テンだ。カメラを向ける間もなくきびすを返して駆け上がって行った。この森ではたくさんの動物に出会った。キツネ、タヌキ、イノシシ、シカなど。あとは会いたくもあり会いたくもないツキノワグマが残っている。遠くから見るのであればありがたいが。

川からは時々カジカガエルの声が聞こえ、もうそんな季節なのかと感じ入る。

廃村の灰野を過ぎると谷は狭まり時々渓谷をなす。崩れたあるいは崩れかけた橋、落石、崩土などが随所に出、徒歩でなければ進むことはできなくなる。川のこちら側は二次林や植林帯となっているが、対岸はずっと原生林が続いている。

新緑の中を貫く由良川の清流を眼下に、軌道跡を忠実にどんどん奥へたどり続けると、満開のシャクナゲの花と真っ白いオオカメノキの花が川の両岸に点々と現れてくる。新緑とはいえ鮮やかさに欠ける山肌には、それらの花はまぶしいほど鮮明だ。

足元にクリーム色をしたツツジの花びらを見つけ仰ぎ見ると、崖の上にいっぱいの花をつけたヒカゲツツジが咲いていた。この花に出会うのは2度目、決まって崖の上から見下ろすように咲いている。

出発してから2時間(ゆっくり歩きすぎたかなあ)、左岸から入る2つ目の大きな谷、カヅラ谷の出合に着く。ここにはまだ使用に耐える作業小屋があり、シュラフなど持ってくれば宿泊も可能だ。この谷に架かっていた橋も崩れ、昨年から渡れなくなっている。カヅラ谷に下ってこれよりこの谷に入っていくことにしよう。

道は踏み跡程度、時々テープが付けられコースを示している。谷の中は今までと違って原始性に満ち、まさに原生林にふさわしい様相だ。トチノキ、カツラ、サワグルミといった大木が空いっぱいに枝を伸ばし突っ立っている。

ここでスミレサイシンの花に出会う。日本海側特有のスミレで、葉っぱが大きく立派だ。道中このスミレの葉っぱをたくさん見つけたが、花が咲いているのには出会えず今日はだめかと思っていたので嬉しい。

コースは流れを何度も左右に渡る。植橋谷を過ぎると滝場となるがた易く越えられ、その上の桑ノ木谷へ入っていく。しばらくは平凡な流れであったが、急に険しくなって10mほどの滝に出会った。

登れそうなので流れの右側を攀じるが、長靴では滑りやすく心もとない。上からサルナシの太い蔓が垂れ下がっていたので、それを支点に越えようと引っ張ると、なんと引き抜けてしまった。枯れていたのだ。すっかり慌てた。蔓があるからとここまで登り、先のルートは考えていなかったからだ。それでもなんとか最後は木の根につかまって攀じ登り終える。今日一番緊張したときだった。

それから先は傾斜こそあれ悪場はなく、やがて尾根上へ。それを少し上がれば摂丹国境だ。10時30分。

国境の反対側は手入れのされていない荒れた人工林。そちら側だけ見ているとまったく普通の山なのに、演習林側は重厚な原生林。その余りの対比に、一瞬どこの山にいるのか判らなくなりうろたえてしまう。

この原生林と人工林の境界を北へ、天狗峠(国土地理院の地図には天狗岳と表示されている)に向かってたどることにする。稜線からは先月登った三国岳や経ケ岳を望むことができる。稜線上には踏み跡があり、薮も薄く通過は容易だ。だからここでネマガリダケのたけのこを期待していたが、残念ながらなさそうだ。稜線上の所々には名残のコブシの花が咲き、白い花びらが足元に散っている。

30分ほどで天狗峠の頂上。山頂は摂丹国境より少し西、芦生側に入ったところにある。だから周囲は原生林、従って視界がきかない。しかし山頂付近のイワウチワは花盛りで、ちょっとしたお花畑のよう。

頂上より西に延びる尾根は緩やかで気持ちがいい。今日はこの尾根を七瀬に向けて下っていくことにしよう。尾根上には踏み跡があり、最初はブナが、下るほどにミズナラとアシウスギが現われてくる。広い尾根には所々下草のない魅力的な平坦地があり、どうしても留まらざるを得なくさせる。今日もこの誘惑に負け、ここで休んでついでに昼食にすることにした。今朝家を出たのが午前4時、ボツボツ眠くなり始め少し昼寝でもしていきたいところだ。しかし足の調子が悪く長時間休む余裕がないので、食事だけにして歩き始める。

この尾根は以前に2度通り、いずれも途中からカヅラ谷出合に降りていたが、今日はまっすぐ七瀬まで下ることにする。尾根が少しやせ気味になると満開のシャクナゲが現れ始め、まるでどこかの山にある『シャクナゲ尾根』といった感じだ。

それを過ぎると傾斜は急になり、やがて踏跡も消え、やむなく下へ下へと強引に下っていく。由良川の音が次第に近づきとうとう流れが見えてくると、最後に森林軌道跡に飛び出した。12時30分。軌道跡終点の七瀬より少し下流に来たところに出たらしい。

「さあ、これから延々と続くこの歩道を、須後めざして歩くことにするか。」

カヅラ谷までは新しい花に出会わないかと足元を探しながら歩いた。新たにヤマルリソウを見つける。その他は目新しい花もなくやがてカヅラ谷に戻ってきた。ここで今日始めて人に出会う。紅葉の頃にはぞろぞろ人に出会うのだが、新緑では魅力がないのだろうか? 

その後は新緑の山を、川の流れを眺めながら、早くたどり着くことだけを願いひたすら歩く。それにしても何度歩いてもこの道は長い。ことに往きの帰りはなお更である。

灰野まで戻り川原にクサソテツノの芽吹きを見つけて下ってみる。山菜名コゴミ。採り頃のものもあるが、演習林内では採ってはいけない。

杉林から突然視界の開けた水田に出、井栗邸を見つけると、「もう最後だ」といつもながらほっとする。

須後に戻りついたのは14時40分であった。


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